犬木加奈子「プレゼントB」(1998年9月5日初版発行)

 クルミはお誕生日にプレゼントをもらえなかった、十歳の女の子。
 その日からずっと、彼女は自分のプレゼントを捜して、さまよい続ける…。

・「第1話 マスク」
「ある高校のクラスで、マスクをしている生徒が目立ち始める。
 この機会に、ハルミは、想いを寄せている清助に、風邪は人に移すと治ると積極的にアタック。
 その日の帰り、ハルミは清助に導かれるまま、薄暗い路地に入る。
 彼はハルミにキスをするのだが…」

・「第2話 真実の美」
「ものすごくブスな女性。
 彼女が付き合っている男性はそんな彼女を美人と褒め、次々とプレゼントをしてくれるが、どれも悪趣味なものばかり。
 そんなものを身に付ければ付ける程、周囲の見る目は厳しさを増すが、彼は美を追求するために、醜さが必要と主張する。
 ある日、彼女は彼の部屋を訪れる。
 部屋は彼女の予想を遥かに超えたセンスに支配されていた。
 彼女はこの部屋に似合う女性と言われるのだが…」

・「第3話 卵」
「転入生の空野青太は問題児。
 学校はサボるは、喧嘩はするはで、クラスメート達は心底嫌う。
 だが、ある時を境に、彼は大人しくなる。
 彼はクラスメート達が放置していた鶏を一人で世話をして、鶏が産んだ卵を三つ、いつも胸に抱いていたのである。
 クラスメート達は無精卵は孵らないと主張するも、青太はこの中には生命が宿っていると譲らない。
 彼が卵にこだわる理由とは…?
 そして、彼の姿を見るうちに、クラスメート達の心境に変化が訪れる…」

・「第4話 運命のプレゼント」
「占い師の老婆。
 彼女は夜の街路を歩く少女を衝動的に呼び止める。
 老婆が少女の手相を見ると、少女はずっと探し物をしていた。
 その時、老婆は数十年前の過去を思い出す。
 その過去のために、彼女は占い師になったのであった。
 次に、少女の未来と見ると…」

・「第5話 愛を編む女」
「網野ケイ子は、毛糸玉に「女の愛の形」が宿っていると信じていた。
 毛糸玉から糸をたぐり寄せ、編み物を編むこと…そうすることで男の愛を必ず得られる。
 しかし、彼女がいくら編み物をしても、冷たく拒絶されるだけであった。
 ある日、彼女は男子生徒の会話を立ち聞きする。
 女の子達は、男の心を捕まえるおまじないとして、編み物に自分の髪の毛を編みこんでいるという。
 それを知って、ケイ子は、自分の編み物に何が足りなかったのか知るのだが…」

・「第6話 一番ほしいプレゼント」
「ママ子は友達ができない。
 彼女の理想とする友達は、彼女の言うことだけを聞いて、彼女とだけの約束を守ってくれるという、自分のわがままを通してくれるものであった。
 新しいクラスで、彼女は理想通りの友達と出会う。
 その友達の名は師良レイ子といい、ずっと病院にいたため、学校に友人がいなかった。
 二人は一番の仲良しとなり、してほしいことをしてもらったら、必ず返すという「友情の約束」をする。
 ママ子はそれにかこつけて、都合よく彼女を利用する。
 更に、ママ子はレイ子に高価なプレゼントをねだり、レイ子はそれに応えようとバイトで無理をした挙句、倒れてしまう。
 そして、今度は、ママ子は「友情の約束」を果たす番…」

・「第7話 鏡」
「クラスの家勝典子は学校一の美人。
 女子生徒達からは総スカンをくっていたが、ブスの白井こな子は美人は美人だと典子をかばう。
 非難はこな子にも向けられるが、そんな彼女を、女子生徒達の憧れ、ニヒル君がかばってくれる。
 彼に想いを寄せていたこな子は、せめて心だけでも美しくなろうと決心。
 更に、家勝典子がこな子に話しかけてきて、二人は友達と言われる間柄となる。
 ある日、典子は自分の美しさの秘密を語る。
 彼女はもともと平凡な顔立ちだったが、古道具屋で見つけた鏡で毎日、顔を見つめ、化粧を繰り返しているうちに、美しくなっていたという。
 そして、こな子に自信をもって、美しさを引き出すよう勇気づける。
 こな子を励ます典子の姿はニヒルの目に留まり、二人は付き合うようになる。
 こな子はニヒルの自分が向けたのは同情だけと知りつつも、やはり、典子への嫉妬を抑えられない。
 ある時、こな子は典子の足をわざとひっかける。
 典子は窓ガラスに顔から突っ込み、重傷を負い、悲観した典子は病院の屋上から飛び降り自殺をする。
 彼女の形見として、こな子は鏡をもらうのだが…」

・「子育て岩石」(「ZOKZOK」掲載)
「ある古寺の竹藪の中にある子石地蔵。
 昔、この寺には親に捨てられたり、売られたりした悲しく淋しい子供達がたくさんいたという。
 その子供達はいつしか姿を消し、その代わりに、一つの石が子供のような形になる。
 この石は「母の愛に飢えた子の怨念の姿」で、近づく女の子宮にもぐり込むという噂されていた。
 ある日、子供の授からない女性がこの寺を訪れ、子石地蔵に触れる。
 その後すぐ、女性は妊娠するが、出産の際、産みの苦しみに、赤ん坊はいらないと叫ぶ。
 そのためか、産まれてきたのは、石の塊であった。
 彼女は自分のせいで赤ん坊が心を閉ざしたと思い、その石に惜しみない愛情を注ぐ。
 だが、夫は彼女のもとを去り、仕事に出るようになった彼女は育児に疲弊していき…」

 「プレゼント」の最終巻です。
 クルミちゃんがお家に帰れたのかどうか、はっきりとは明かされませんが、作者によると「きっといつか帰ります」とのことです。
 あと、この単行本で注目してほしいのは「子育て岩石」。
 美しく、もの悲しい幻想譚で、犬木加奈子先生にしか描けない作品だと私は思っております。
 こういう作品を読むと、「犬木ワールド」の奥深さを垣間見たような心地になります。

2023年1月17・18・22日 ページ作成・執筆

秋田書店・リストに戻る

メインページに戻る