永久保貴一「永久保怪異傑作集 人形供養」(2008年8月15日初版発行)

 収録作品

・「人形供養」(「ミステリーボニータ」2002年8月号掲載)
「永久保貴一先生が編集さん(女性)と打ち合わせていた時、都市伝説の話題となる。
 そこで、先生が話したのは、S市にあるミッション系のF学園にまつわる話。
 その高校には礼拝堂に、人形の供養部屋があると言う。
 更に、そこでは四年に一回ぐらいの割合で、生徒の自殺があるらしい。
 ある年の学内合唱コンクールで、ピアノ担当の女子生徒がミスをする。
 以来、彼女はクラスメート達に無視されるだけでなく、先生やシスターからもそのミスを責められる。
 思い余った彼女が校舎の屋上から跳び下り自殺をした時…」

・「慰霊祭(イチャルバ)」(「ミステリーボニータ」2002年4月号掲載)
「御子柴藍子(みこしば・あいこ)は、祟木(たたりぎ)に強い霊能力者。
 彼女には幼い頃から、黒主という名の霊がついており、彼女の力となってくれていた。
 ある日、札幌のホテル養光楼から除霊の依頼を受ける。
 そのホテルのある部屋で、三人も宿泊者が自殺していた。
 彼女は嫌な予感を感じるが、どうしても行かなければいけない気もして、依頼を受ける。
 彼女は札幌の生まれで、父母は幼い頃に亡くし、その地でおばに育てられた時期もあった。
 そのホテルに到着し、くだんの部屋に入る。
 部屋の窓から見える木の枝に、20年ぐらい前に首を吊った霊が視えるが、その霊は、彼女の父親であった。
 彼女が事件について調べると、彼女の父親は新興宗教の教祖で、ある時、教団の若い男が彼女の母親を殺害。
 その後、父親はその男を殺し、首吊り自殺をしたと言う。
 だが、教団の若い男は黒主にそっくりで…。
 教団での連続殺人事件の秘密とは…?」

・「折花宮」(「ミステリーボニータ」2003年1月号掲載)
「神奈川県津久井郡丹沢山地神ノ川。
 ここには、戦に負けた武将の姫がここまで逃げ延びて自殺したと言われる折花神社があった。
 四人の少年達が、折花姫の幽霊の噂を聞き、ここを訪れる。
 何も起こらず、帰ろうとした時、折花姫の幽霊が現れるが、伊藤克也だけは全く恐怖を感じなかった。
 その夜から、彼は不思議な夢を続けて見るようになる。
 戦国時代、彼は忍者のヨシで、小山田八左エ門の娘、花姫の警護にあたることになる。
 長篠の戦の後、武田につく小山田家は織田軍の攻撃を受け、落ちのびようとするが…」

・「神憑トリプレア焔」(「ミステリーボニータ」2001年5月号掲載)
「愛宕真央は愛宕神社の娘。夢は死んだ祖父の拳法道場を復活させること。
 浅間多恵は浅間神社の娘。お菓子大好きの食いしん坊。
 秋葉沙耶花は秋葉神社の娘。世界中のイケメンは皆、自分のもの。
 ある日、三ツ社(みつしろ)高校に隕石が落ちる。
 それにより、その地に封印されていたクベメが復活する。
 その夜、真央、多恵、沙耶花は同じ夢を見る。
 夢の中では、その土地の産土神が現れ、三人にクベメを封印して欲しいと頼む。
 そのために、三人に聖なる力を与えるというのだが、三人が願ったこととは…。
 三ツ社の巫女はクベメを倒すことができるのであろうか…?」

 心霊漫画はまだまだ知識が浅いのですが、永久保貴一先生は「つのだイズム」の継承者だと個人的に考えております。
 「つのだイズム」とは何ぞや?と申しますと、「心霊知識をうまく取り入れたエンターテイメント作品」です。
 心霊漫画は体験談をそのまま漫画化したものがほとんどで、心霊学の知識をベースに、エンターテイメントにまで昇華した作品は少ないように感じます。
 その中でも、永久保貴一先生は長いキャリア&心霊に対して真摯な関心の持ち主で、幅広い知識を駆使した上に、きっちりとしたストーリーを組み立てて、読み応えがあります。
 この単行本は短編が四つ収録されておりますが、どれも良い出来です。(でも、コメディタッチの「神憑トリプレア焔」は、ギャグ・センスが合わず、個人的にはイマイチかな…。)
 個人的なお気に入りは、リインカーネーションものと青春ものを巧みに合体させた「折花宮」。爽やかな読後感がステキです。
 また、霊能者が、自分の両親の過去を知るミステリー仕立ての「慰霊祭」も素晴らしい。
 そして、「人形供養」は実に禍々しく、かなり不気味です。
 永久保先生は、温厚そうな方ですが、本気を出すと、ヤバい漫画を描きますよ!!

2021年10月18・19日 ページ作成・執筆

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