山岸凉子「黄泉比良坂」(1985年11月1日初版発行)

 収録作品

・「黄泉比良坂(よもつひらさか)」(1983年「ボニータ」9月号掲載)
「果てしなく暗く、静かな深淵で、一人の女が目を覚ます。
 だが、五感は働かず、身体の感覚もない。
 彼女は自分のことを思い出そうとするが、何も思い出せない。
 たまに、目の前を人物や風景がよぎるが、それはすぐにかき消えてしまう。
 彼女はひどく寂しく、誰かのいる所に行きたいと願いつつ、ただ待ち続けて…」

・「クリスマス」(1976年「プリンセス」1月号掲載)
「七歳のジョルジュは、両親の離婚騒動がもとで親戚の間を転々とし、雪の日、アイオワ州のフォーク家に辿り着く。
 そこで、彼はミス・クックという女性と出会う。
 彼女は四十を過ぎたオールド・ミスで、フォーク家の実権を握るマーガレテの姉なのに、家族からは全く相手にされていなかった。
 彼は、この感傷的で、繊細すぎる従姉の「騎士(ナイト)」になろうと決意する。
 粗末な台所部屋で、二人と犬のバディは貧しいながらも満ちたりた生活を送る。
 そして、五年目のクリスマス…」

・「海底より」(1983年「ひとみデラックス」11月25日号掲載)
「下関市。
 登の家で、元・アイドル歌手の翼マミを預かることとなる。
 彼女は一年前から視力がどんどん落ち、厄介者として親戚中をたらい回しにされた挙句、遠い親戚である登の家に押し付けられたのであった。
 その夜、マミは、目がよく見えないのに、外出する。
 登が後を追うと、彼女は赤間神宮にいた。
 耳なし芳一に興味を持ち、翌日、彼女は赤間神宮の七盛塚を訪れる。
 耳なし芳一の像の前に立つと、平家物語を語る声が聞こえ、気が付くと、黄昏時であった。
 この出来事以降、彼女の絶望した心は、平家の怨霊と同調していく…」

・「シュリンクス・パーン」(1976年「プリンセス」5月号掲載)
「オシアンは大学卒業後に書いた処女作がベストセラーになり、第二作を待望されていた。
 そんな時、叔父のチャールズ・ポターが亡くなり、彼は山中の古ぼけた屋敷、オールド・バターシー・ハウスを相続する。
 相続の条件は二つ、屋敷に住むことと、「パーン一匹」を飼育することであった。
 チャールズ叔父は愛人に逃げられたことが原因で偏屈になり、三十年間屋敷から出たことがなく、オシアンは「パーン」は犬か何かの動物だと推測する。
 屋敷に越してきて、彼は一人暮らしを始めるが、確かに何かの生き物がいて、彼が縁側に用意したドッグ・フードを食べていた。
 また、夜には、どこからか不思議な笛の音が聞こえてくる。
 ある夜、彼が笛の音のする方向に向かうと、一人の少年が木の下でパンパイプを吹いていた。
 少年は逃げ出すが、翌日、彼を捕まえて、食事をさせる。
 彼は、叔父(大きいパーン)に「シュリンクス(のパーン)」と呼ばれていて、二人は「共同生活者」だったという。
 そして、「パーン人種」とは「人に愛してもらえない人間」のことであった。
 オシアンは彼を徐々に慣らしていき、いろいろなことを教える。
 ある日、彼の様子を見に、編集のキャサリン女史が訪ねて来るのだが…」

・「幸福の王子」(1975年「プリンセス」1月号掲載)
「15歳も年上の資産家のダヴィッド氏に嫁いだコンスタンス。
 マーティン・ウォーリックは彼女を追って、ロンドンに来たものの、彼女には会えないまま、こそ泥に堕落していた。
 ある日、彼は、ダヴィッド夫妻が、破産を苦に、服毒自殺したことを知る。
 コンスタンスの面影を胸に秘め、ダヴィッド家の邸を訪れるが、こそ泥の浅ましさで、邸に忍び込んで、金目のものを物色する。
 すると、寝台に、コンスタンスにそっくりな、10歳ぐらいの少年がいるのに気付く。
 物音で人が来たため、マーティンは邸から逃げ出すが、何故か、少年も彼についてくる。
 少年はどこかネジが緩んでいて、また、病気ということもあり、マーティンは彼を放ってはおけず、仕方なしに世話をする。
 だが、少年は自分のことはそっちのけで、貧しい人や哀れな人にどんどん恵んでしまう。
 少年の捜索願いが出されていることを知りながらも、マーティンは彼の面倒を見ようと考えるが…」

 名作揃いです。
 個人的には、怪奇マンガよりも「クリスマス」「シュリンクス・パーン」に心惹かれます。

2021年6月21日・9月24日 ページ作成・執筆
2022年1月17日 加筆訂正
2023年1月30日 加筆訂正

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