伊藤潤二「怪奇カンヅメ」(1996年11月25日第1刷発行)

 収録作品

・「仲間の家」(1994年「ネムキ」VOL.20)
「ゆかり、ちか子、美苗は仲良し三人組。
 ある日、三人は幽霊屋敷と言われる廃墟を訪れる。
 ちか子と美苗は中に入るが、ゆかりは外で待つ方を選ぶ。
 中には階段があったが、途中で板で塞がれており、下部が破けていた。
 美苗は一人で二階に上がり、裏口を通って外に出て、一方のちか子は一階を少し見てから、ゆかりのもとに戻る。
 ちか子と美苗はひどく怯えて、顔色が悪かった。
 しばらくして、ちか子と美苗の仲は非常に険悪になる。
 ゆかりがちか子に理由を聞くと、彼女は最近、大学生のグループと仲良くしていると話す。
 そして、その集合場所はあの幽霊屋敷であった。
 ちか子はゆかりを一階の部屋に案内すると、大学生らしき男女が集まっているのだが、その正体は…?
 彼らは「二階の連中」を敵視しているのだが…」

・「ナメクジ少女」(1994年「ネムキ」VOL.21)
「利恵は夕子の家にお見舞いに行く。
 夕子はおしゃべりだったのに、急に舌足らずになっていき、遂には学校にも来なくなる。
 夕子の部屋に行くと、彼女はマスクをつけ、ろくに喋れない様子。
 しかも、彼女はひどく怯えていた。
 翌日、また夕子の家を訪れると、母親がパニックになっている。
 夕子が玄関に立っていたが、夕子の舌は巨大なナメクジになっており…」

・「隣の窓」(1995年「ネムキ」VOL.23)
「ある町の一軒家に引っ越してきた坂口一家(両親と一人息子のヒロシ)。
 中古の一軒家にしては格安であったが、二階に一部屋しかないためと彼らは考える。
 引っ越し当日、ご近所に挨拶に行くが、右隣の沼毛という家は留守であった。
 ご近所の話によると、人はいるらしいが、いつも鍵がかかっていて、十年住んでいる隣人も顔は見たことがないと言う。
 二階はヒロシの部屋となるが、夜、窓の向こうから声がする。
 窓を開けると、その沼毛の家の二階の窓が開き、どう見てもバケモノの女性がヒロシに話しかけてくる。
 その女性はどうにかして彼の部屋に来ようとするのだが…」

・「漂着物」(1995年「ネムキ」VOL.26)
「太平洋岸のある海岸に巨大な水中生物が打ち上げられる。
 長さは30メートルぐらい、身体中に妙な突起があり、皮膚の所々に濁ってはいるが、透明な部分がある。
 全く未知の生物であり、駆けつけた生物学者達も首を捻るばかり。
 野次馬がどんどん集まってくるが、中の一人が透明な部分の向こうに意外なものを発見する…」

・「ご先祖様」(1996年「ネムキ」VOL.29)
「理佐は下校途中、突然に記憶喪失になる。
 彼女を家に送ってくれたのは、ボーイフレンドの牧田秀一だが、原因は不明。
 彼女は「わけのわからない不安」につきまとわれ、「大きな毛虫」の幻を視る。
 ある日、彼女は牧田と共に散歩に出たついでに、彼の家に寄る。
 そこで、彼の父親と「二度目」に会うが、父親は寝そべったまま、移動していた。
 彼の家に行ったことで彼女の不安はより強くなり、あそこで「記憶をなくしてしまうほどの恐ろしい何か」を見たのではないかと考えるのだが…」

・「異常接近(ニアミス)!」(1993年「眠れぬ夜の奇妙な話」VOL.15)
「夜、中央航空ジャンボ機303便が静岡県上空で消息を絶つ。
 この機には小西の大学仲間の高潮が乗っており、川口を加えた三人で集まる予定であった。
 小西は彼の妹と川口と共に、夜中にもかかわらず、セスナ機で出発する。
 そして、静岡上空にさしかかった時…」

・「怪奇ひきずり兄弟 次女の恋人」(「ハロウィン」1995年11月号)
「小西は下宿住まいの高校生。
 彼のもとに中学校の頃の後輩(二年下)の引摺成美から電話がかかってくる。
 彼女は近くの橋での自殺をほのめかし、小西は彼女を引き留めに行く。
 彼女が家に帰りたくないと言ったため、二人は下宿で同棲することとなるが、次第に成美のずぼらな性格が明らかになる。
 小西は成美に家に戻るよう勧めるも、すぐに自殺を持ち出すので、同棲はずるずると続く。
 一方で、引摺家の兄弟達は彼女を捜していた。
 引摺家は数年前に両親を亡くして、今は兄弟六人。(長男の一也(19歳)。長女の黄子(18歳)。次男の四五郎(16歳)。次女の成美(15歳?)。三男のヒトシ(10歳)。三女のみさ子(8歳))
 ある日、四五郎が小西のアパートに成美がいるのを発見し、ムリヤリ連れ帰る。
 二日後、四五郎が小西のアパートにやって来て、成美が自殺したと告げる。
 小西は彼女の亡骸を見るために引摺家を訪れるのだが…」

・「怪奇ひきずり家族 降霊会」(「ハロウィン」1995年12月号)
「引摺一也は長男の手前、大手保険会社のエリートと偽って、毎日、出社するふりをしていた。
 実際は、家には両親の遺した遺産がたくさんあるので働く必要はなく、ただ近所をぶらぶらするだけであった。
 ある日、彼は公園でカメラマンらしき女性と出会う。
 彼女の名は原サチヨで、心霊写真を撮ろうとしていた。
 一也は彼女に自宅を勧め、数日後、彼女は引摺家の屋敷を訪れる。
 屋敷の横は墓地で、彼女が試しに写真を撮ると、どの写真にも霊らしきものが写っている。
 中でも、ヒトシを写したものは彼の背後に霊がびっしり憑いていた。
 夜、黄子がサチヨのマンションを訪れ、降霊会を開催するので証人として出席してほしいと頼まれる。
 サチコはボーイフレンドの沢野と共に降霊会に参加し、みさ子以外はテーブルの周りに集まり、皆で手をつなぐ。
 霊媒は一也が務め、両親の霊を呼び出すのが目的であった。
 降霊会の最中、四五郎が急にエクトプラズムを吐き出し、父親の霊が憑依したようなのだが…」

 何と言っても「ご先祖様」!!
 これは「突拍子もない奇想」「突き抜けている感のあるユーモア(注1)」「この二つに生命力を与える圧倒的な画力」が三拍子揃った傑作です!!
 これがあまりに凄すぎて、他の作品が霞んでしまってますが、「仲間の家」「ナメクジ少女」「漂着物」と良作揃いです。
 ただ、「怪奇ひきずり家族」は「双一シリーズ」ほど、キャラが動いていない印象を受けております…。

・注1
 「ユーモア感覚」は伊藤潤二先生の作品において重要な要素だと考えております。
 「首吊り気球」「うずまき」「ギョ」…首筋がぞわぞわしている一方で、心のどこかでしきりに「面白がっている」のです。
 この「ユーモア感覚」は「やり過ぎ」も理由の一つでしょうが、もっと奥深いものがあるような予感がしております。
 「ホラー」と「笑い」に関しては、いろんな人が考察しておりますが、私自身でも気長に考えを熟成させ、いつかまとめてみたいと思います。(果たせないままで終わるかもしれませんが…)

2023年4月11・13・15日 ページ作成・執筆

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