諸星大二郎「グリムのような物語 トゥルーデおばさん」(2006年2月28日第1刷発行)

 収録作品

・「Gの日記」(「ネムキ」2002年4月号増刊「眠れぬ夜の奇妙な話」)
「少女はいつからか広大なお屋敷にいる。
 針のない時計が時を告げると、彼女は、地下室の子供に食事を与える。
 その子はただ食べて、大きくなるだけ。
 家の主の老婆は寝ている間は目を開けていて、起きる間は目を閉じている。
 起きている間は少女が老婆の世話をしなければならず、寝ている間は、天井から目のようなものが彼女を見張っている。
 いつから、そして、いつまでこの広大な屋敷にいなければならないのか?
 また、壁に向かって、曲芸を練習している少年はだれなのか?
 一日一回、カーテンを開くたびに外の景色は違っているが、外に出る玄関はあるのか?
 疑問は尽きないが、老婆が恐ろしくて、聞くこともできない。
 ある日、少女は、地下室のワイン樽の陰で、老婆に呪いをかけるのだが…」

・「トゥルーデおばさん」(「ネムキ」2004年5月・7月号)
「強情ぱりの少女は、両親が止めるのも聞かずに、トゥルーデおばさんの屋敷に向かう。
 一階には、青い男。
 彼は、どこかに出かけては、死人に関係する「怒りや悲しみの匂いがする物たち」を集めてくる。
 二階には、黒い男。
 彼は、夜になると出かけて行き、明け方になると帰ってくる。
 青い男によると、彼は夜の間に「恨みとか憎しみとか争いの種とか」を蒔いてくるらしい。
 三階には、赤い男。
 彼は常に斧を持ち、昼頃出かけて、夕方になって帰って来るが、その斧にはべったりと血がついていた。
 少女はそれぞれの階を探るが、トゥルーデおばさんの姿はどこにもない。
 彼女は、ないはずの四階にいるのではないかと考えるのだが…」

・「夏の庭と冬の庭」(「ネムキ」2004年9月号)
「娘が野獣と一緒に住む屋敷には、夏の庭と冬の庭が隣り合わせであった。
 真冬に、娘から白いバラが欲しいと言われた父親が、夏の庭のバラを盗もうとしたことが原因で、娘は野獣と暮らすことになったのである。
 相手は野獣であったが、娘に対して優しく、頼みは何でも聞いてくれる。
 娘は、夜の生活は一切拒否するが、野獣のことはそこまで嫌いではない。
 庭の女神像は「けものを救いたい」と思ったら、魔法は解けると話す。
 彼女が野獣に優しさを示すと、魔法は少しずつ解けていくが、その行く末は…?」

・「赤ずきん」(「ネムキ」2004年11月号)
「赤ずきんは森の中にある、祖母の家に向かう途中、背の高い中年男性と出会う。
 赤ずきんが野イチゴを摘んでいる間、彼は祖母の家に行ったらしく、以来、祖母は行方不明となる。
 近くの森で、大きな狼が死んでいたので、恐らく、祖母は狼に食べられたらしい。
 それからしばらく経った頃、赤ずきんは森の中で、今度は、青年に話しかけられる。
 彼は祖母の家まで案内をして欲しいと頼み、みちすがら、祖母について色々と尋ねる。
 赤ずきんは男性が人狼で、祖母を食べたのだろうと話すのだが…」

・「鉄のハインリヒ または蛙の王様」(「ネムキ」2005年7月号)
「お城の末のお姫様は森の中で大きな鉄の人間を発見する。
 鉄の人間は「鉄のハインリヒ」と名乗り、三つの箍(たが)で動きを封じられていた。
 ハインリヒの主人であった王は、呪いをかけられ、深い泉の底にいるという。
 姫がそこに行くと、泉の底に、大きな蛙のような生き物がいた。
 鉄のハインリヒは、王の呪いを解く方法は、王と婚姻することで、それは姫の血の一滴を捧げるだけでいいという。
 ハインリヒを自由にするため、姫は蛙の王様の住む泉に血を一滴垂らす。
 蛙の王様は徐々に人間らしさを取り戻し、ハインリヒの箍も一つずつ外れていくのだが…」

・「いばら姫」(「ネムキ」2005年9月号)
「野薔薇荘というアパートに住む青年。
 彼は、寝ている間、隣の部屋から妙な物音を聞き、奇妙な夢を見るようになる。
 夢では、隣の部屋があるあたりに、一人の女性が横たわっているのであった。
 女は何か寝言を呟いているようだが、はっきりとは聞き取れない。
 また、隣の部屋は空き部屋であった。
 彼が夢を見始めてから、アパートには固いイバラがどこからか伸びて、覆い始める。
 友人に聞くと、このアパートでは、若い女性の未解決殺人事件があったらしい。
 ある夜、夢の中で、女性の「ワタシヲ起コシテ」という呟きを聞く。
 彼が目を覚ますと、アパートの中はイバラだらけであった。
 イバラは隣の部屋から伸びているようなのだが…」

・「ブレーメンの楽隊」(「ネムキ」2005年11月号)
「ある森の家に住む四人の泥棒。
 芸人のヘルマン(赤頭)、笛吹きのブッパルト(笛吹きの大将)、ブリキ職人のミハエル(ぱっくり)、一番年少のハンス(泥棒猫)。
 彼らは、謝肉祭の仮面をかぶり、夜、森を通る人を脅かしては、物品を強奪していた。
 彼らは口ではブレーメンに行くと言うものの、ただただ怠惰に過ごすばかり。
 ミハエルとハンスは二人だけでブレーメンに行くことを決意し、ある朝、家を出る。
 笛吹きも赤頭と喧嘩をして、出発するのだが、果たして彼らはブレーメンへとたどり着くことができるのであろうか…?」

・「ラプンツェル」(「ネムキ」2005年1月・3月・5月号)
「ちさとのよく見る夢。
 奇妙なものが雑然と置かれた部屋の中、彼女は椅子に座り、「ラプンツェル」と呼ばれると、窓の下へ髪を垂らす。
 その髪を伝って、「何か」が…大抵は老婆が上がって来る。
 だが、ある時、彼女の髪を登って、見知らぬ少年が現れる。
 次の夢でも、彼は彼女の夢に現れ、塔の中を探索する。
 塔の中は、おかしな部屋ばかり。
 その中に、等身大の人形だらけの部屋があった。
 ちさとが調子に乗って、人形を次々と壊していくと、少年にそっくりの人形をうっかり壊してしまう。
 少年の姿は消え、以来、彼女の現実はどこかおかしくなる。
 友人の麗子の家からの帰り道、彼女は夢の中の少年と会う。
 彼は彼女に見せたいものがあると言い、廃ビルの中へと案内する。
 奥のエレベーターがあったらしい所で、少年が「ウプンツェル」を呼ぶと、上から髪が降りて来て…」

 諸星大二郎先生がグリム童話にインスパイアされて描かれた作品です。
 と言っても、グリム童話をちゃんと読んだことがないので、あまり実のあることは言えません…。(それ以前に、あまりに大胆な脚色で、完全に諸星作品ですが…。)
 個人的には、「鉄のハインリヒ あるいは蛙の王様」と、かなり痛々しい、直球ホラー「いばら姫」が好みです。
 あと、あとがきの「(グリム)ブームの最中というのは同じものはあまり描きたくならない」という文章に、諸星先生らしさを感じちゃいました。

2021年6月3・4・28日/7月31日 ページ作成・執筆

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