さいとうたかを「人犬(1968年6月20日初版発行)

 収録作品

・「人犬」(1966年「別冊少年マガジン」)
「倉田は友人の乾(いぬい)に会うために、犬居村を訪れる。
 乾は兄が原因不明の自殺をしたため、帰郷していた。
 犬居村の入り口にある犬頭神社で倉田は野良犬の集団に取り囲まれる。
 彼がうろたえていると、その場に老婆が現れ、野良犬たちは彼女の後に付いて行く。
 乾の家に着くと、彼は倉田を歓迎してくれ、数日滞在することとなる。
 この家には彼と婆やしかいないが、この婆やは先ほどの老婆であった。
 また、乾は兄の自殺のために一族の最後の一人となるが、実は乾一族は今まで皆、行方不明になったり、自殺したりしていた。
 彼は自分の一族が祟りを受けているのではないかと怯えるのだが…。
 乾家の秘密とは…?」

・「ダイナマイトヒッチ」
「神田勇一という少年がアメリカで牧場を成功させた祖父に会いに行く。
 勇一は両親を亡くし、身寄りは祖父だけであったが、この祖父も病気で瀕死であった。
 祖父は勇一を一目見て、安心して亡くなり、勇一には祖父の遺産、130万ドルが入ったカバンが遺される。
 これに目を付けた弁護士は、牧場で働く男二人と結託して、このカバンを奪おうと計画。
 弁護士は勇一にこのカバンはある人に届ける必要があり、自分たちが代わりに届けようと提案するも、勇一は祖父の遺言を守るために自分が届けると決める。
 勇一はカバンを片手に弁護士に教えられたでたらめな住所を目指すが、弁護士に雇われた連中が次々と彼の行く手を阻む。
 だが、某国のオテンバ王女と知り合ったことから事態は思わぬ方向に…」

・「挑戦」
「北海道N地帯。
 春のある期間の間、山から野生馬の群れが降りてくる。
 その群れのリーダーの「くろ」といい、黒い毛並みが美しいだけでなく、すばらしい頭脳と勇気を持っていた。
 この時期にあると、馬喰たちが「くろ」を捕まえようと集まってくるが、誰もいまだ捕らえることは叶わない。
 ある年のこと、大巻吾郎という青年が馬喰たちのもとにやって来る。
 彼も「くろ」が目当てであったが、彼の移動手段はオートバイ。
 馬喰たちは彼をキチガイ扱いするが、彼は「くろ」に怪我を負わされ、自殺した兄の悲願を叶えようとしていた。
 ある日、彼は「くろ」と出会うが、この勝負の行方は…?」

・「吸血鬼」
「山村竜樹は彫刻家志望の青年。
 彼は村の別荘に彫刻家の水殿紀月が滞在していることを知り、弟子入りする。
 水殿紀月は美人像を作りたいと思っており、町に旅行に来ていた白川野菊という娘に声をかけ、モデルを頼む。
 創作中の水殿は鬼気迫る感じで、できた彫刻も非常に優れたものであった。
 完成当日、水殿は白川野菊を町に送りに行き、その間、竜樹は彫刻を観察する。
 何故か、彫刻の首筋に穴が開いていた。
 水殿はなかなか帰って来ず、竜樹が寝ようとすると、あかずの部屋に鍵が刺さったままになっている。
 その部屋に入ると、中には三体の美人像があり、そのうちの一体には血のようなものが中からにじみ出ていた。
 そこに水殿が帰ってくるが、どうも顔色が悪く、様子がおかしい。
 その夜、竜樹はアトリエで水殿が白川野菊の美人像に話しかけているのを覗き見する。
 いつの間にか首筋の穴は塞がれていた。
 翌日、竜樹は女友達の安代から白川野菊が殺されたことを聞かされる。
 白川野菊は身体から血を全て抜かれており…」

 さいとうたかを先生の珍しい怪奇マンガが二編(「人犬」「吸血鬼」)収録されております。
 どちらも名作で、「人犬」は菊地秀行・選「闇の画廊」(角川ホラー文庫)にて復刻されております。
 でも、個人的には「ダイナマイトヒッチ」がベスト。
 祖父の遺産の入ったカバンを持った勇一を巡り、弁護士の一味、某国のプリンセス、プリンセスを狙う暗殺者、逃亡中のギャングが入り混じり、すっちゃかめっちゃかになる内容で、さいとうたかを先生はこんな底抜けに愉快なコメディーを描いていたなんて驚きでした。
 良質な作品ばかりで、多くの漫画ファンの方にお勧めできる一冊です。

・備考
 初版によりカラー口絵あり。全体的に軽度の歪み。

2024年3月23・24日 ページ作成・執筆

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