伊藤潤二「新・闇の声 壊談」(2006年11月30日第1刷発行)

 収録作品

・「続・お化け屋敷の謎 双一前線」(2004年「ネムキ」11月号)
「路菜は十年もの間、行方不明になった親戚の辻井一家を捜して、旅を続けていた。
 旅の途中、彼女は「日本各地にひねくれ少年続出」という新聞記事を読む。
 その「ひねくれ少年」は辻井一家の問題児、双一にそっくりであった。
 更に、「地方回りのお化け屋敷」を見に行ったことが原因らしい。
 路菜は「双一前線」の最先端である東北の田舎村に向かう。
 山道の奥深くにある、張りぼてのようなお化け屋敷…そこで路菜が目にしたものとは…?」

・「双一の愛玩動物」(2006年「ネムキ」7月号)
「さゆりは下校途中、猫を拾う。
 猫は「コロン」と名付けられ、家族に可愛がられるが、双一にはなつかない。
 兄の公一に「動物を愛せない奴は人間も愛せないダメダメ人間だ」と痛罵され、双一はコロンに呪いをかける。
 コロンは徐々に凶暴さを増していくのだが…」

・「合鏡谷にて」(2005年「ネムキ」3月号)
「県境を流れるk川の上流を遡ると、うら寂しい峡谷の両側に廃村がある。
 この集落は大昔、この地に逃げ延びてきた一族が作ったものであったが、いつしか内部で対立するようになり、対岸に向かい合わせて集落を作る。
 二つの村は方角によって「鬼門村」「裏鬼門村」と呼ばれ、対立は昭和の時代にも続いたが、数十年前、突如として二つの村は廃村になり、村人の行方も分からない。
 ある日、三人の青年がこの集落の調査に訪れる。
 最初に気付いたのは、村中に散らばる鏡の破片で、どうやら二つの村は対岸に向けてたくさんの鏡を向けていたらしい。
 そこで、彼らは大きな鏡を二枚、両岸に設置して、合わせ鏡にする。
 二つの村が廃村になった理由とは…?」

・「幽霊になりたくない」(2005年「ネムキ」5月号)
「仕事の帰り、夜の山道を車で走っていると、茂は奇妙な娘を目にする。
 彼女は道の端に突っ立っており、その顔は血まみれであった。
 彼女を病院に連れて行くも、その血は彼女のものでなく、警察に事情聴取された後、彼女はすぐに解放される。
 後日、その娘が茂の家にお礼を言いに来る。
 彼女は、あの場所に自主映画の撮影に来て、幽霊の恰好のまま、山中に取り残されてしまったと説明し、彼女は去り際、茂に携帯電話の番号を書いた紙をこっそり渡す。
 これをきっかけに、彼には妊娠中の妻がいるにもかかわらず、不倫関係となる。
 ある時、彼は彼女に自分のどこがいいのか尋ねると、「たくさんの背後霊が付いてるから」と彼女は答える。
 彼女は母親の死体から産まれ、母親の幽霊に育てられたのであった。
 「幽霊の栄養」で育った彼女は今でもそれでないと満足できないと言うのだが…」

・「蔵書幻影」(2006年「ネムキ」3月号)
「香子は白崎五郎の妻。
 彼の邸宅には十五万冊にも及ぶ蔵書が収められていた。
 それは父から受け継いだもので、彼の大切な宝物であり、彼は全蔵書を三度読破したという。
 だが、結婚後、彼の蔵書への執着は徐々に異常さを増していく。
 彼は暇さえあれば屋敷中の本棚のチェックをして、蔵書が失われる不安に付きまとわれる。
 ある日、彼の母親が好きだったミシェル・ランヌ「冬風のルネ」が行方不明となる。
 次いで、父親が最も大切にしていた赤錆谷男「有棘地獄」もなくなる。
 彼は必死になって家中捜しまわり、遂に力尽きて、倒れてしまう。
 香子は夫の行動の理由を知るために、彼の書斎から棚の鍵を見つけると、棚の中にしまわれた夫の日記を読む。
 そこには、彼の両親について書かれてあった。
 二日後、五郎は意識を取り戻すのだが…」

・「闇の絶唱」(2006年「ネムキ」9月号)
「OLの珠代は女性ストリートミュージシャンの歌を聞いて以来、その歌が頭から離れなくなる。
 そのせいで夜も眠れず、一か月経っても、音楽は頭の中で鳴り続ける。
 ある晩、彼女はラジオでそのストリートミュージシャンが奏憂という名でメジャーデビューしたことを知る。
 そのライブに珠代は出かけるが、ステージ上で奏憂は錯乱して、床に頭を打ち付け、入院。
 その後、彼女の歌は「脳内騒音公害」として社会問題化し、彼女は失踪する。
 一方、珠代はその後もずっと奏憂の音楽に悩まされ続けていた。
 ある日、彼女は「釈騒音研究所」という看板を見かけ、相談に訪れると…」

・「潰談」(2006年「ネムキ」5月号)
「尾木は南米の旅から壺を持ち帰る。
 その壺の中身は蜜で、彼は密林で迷った際にある村にたどり着き、そこで土産としてもらったのであった。
 この蜜は現地民が信仰している植物から出たもので、現地民はこの蜜を命がけで採集していた。
 友人の杉男は試しに一口舐めてみて、その美味さに驚愕する。
 以来、何を食べても味気なく、数日後、杉男は友人四人(有枝、リルコ、安ミン、亀田)を引き連れて、尾木のアパートを訪ねる。
 尾木は留守らしく、彼らは勝手に部屋に入り、蜜を舐める。
 中の一人が異臭に気付き、隣の部屋に行くと、壁に奇妙なものが張り付いていた。
 放射状に飛び散っているのは血で、中央のぺらぺらのものはぺちゃんこになった尾木の身体であった。
 彼らは見なかったことにして、尾木のアパートを去り、リルコの部屋で蜜を五等分する。
 しかし、蜜を舐めている最中、突如、安ミンが尾木と同じようにぺちゃんこにされてしまう。
 この蜜を「気付かれないように舐めろ」という注意の意味とは…?」

 渋い名品揃いで、読む度に味わいが増してきます。
 個人的ベストは「合鏡谷にて」と「潰談」。
 また、「闇の絶唱」は『聴覚に訴えるものを視覚的に表現するという矛盾』を画力で克服していて、感服いたしました。(注1)

・注1
 この件に関しては、さがみゆき先生「呪いの星があざ笑う」のページを参照のこと。

2023年4月26・28日 ページ作成・執筆

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