まつざきあけみ「逢魔が時」(1989年9月20日初版発行)

 収録作品

・「ピーター・パン」(「月刊ハロウィン」1988年6月号)
「愛(いつみ/10歳)は夢見がちな少女。
 その原因は両親の不仲にあった。
 大学名誉教授の父親は一日中大学の仕事であったが、その裏で、浮気をし放題で、一方の母親は美人だが、派手好きで、外で遊び歩いては散財しまくっていた。
 二人は顔を合わせれば喧嘩ばかりで、愛は親の愛情を受けないまま、絵本だけを友達にして育つ。
 ある日、愛はピーター・パンを見たと女中の千恵に話す。
 千恵は二年前、家に来て、彼女だけが愛を心に懸けてくれていた。
 以来、愛の両親は様々な事故にあうようになる。
 愛はピーター・パンに両親を懲らしめるようお願いしたと言うのだが…」

・「けむりを吐かない煙突」(「月刊ハロウィン」1988年7月号)
「小説家の南堂は金沢から武蔵野に引っ越す。
 その屋敷は赤レンガ作りの大きな洋館であった。
 一人娘のありさ(亡くなった妻の連れ子)は勘の鋭い少女で、この家に「いやな予感」がして仕方がない。
 特に気になるのが煙突で、居間の暖炉につながっていたが、ヒーターが完備しているため、塞がれていた。
 更に、屋敷の周囲を気味の悪い老婆が徘徊する。
 ありさがあまりに引っ越そうと主張するので、父親は暖炉を塞ぐレンガを壊す。
 中には何もなく、ありさは気のせいだったと胸をなでおろすのだが…」

・「夜の向こう側」(「月刊ハロウィン」1988年8月号)
「夜の向こう側」
 書間水尾(ひるま・みずお・17歳)は将来を嘱望される新進バレリーナ。
 だが、パリのバレエ学校への留学を目前にして、ラッシュのホームから突き落とされ、両足を切断する。
 半年経っても犯人は見つからず、水尾の犯人への憎しみは軽減することはない。
 足があったら犯人を捜しに行けるのに!!と彼女が強く願っていると、ある夜、急に目覚める。
 「足」が彼女を起こしたようで、実際に「足」の気配がある。
 それは目には見えないが、確かに存在しており、試しに動かしてみた後、立ってみると、ほんのわずかの間であるが、立つことができた。
 どうやらこれは足の「生体エネルギー」で、足は犯人を知っていて、復讐を望んでいた。
 退院後、水尾は毎夜、自分が事故にあった駅に出かけ、ホームを見張る。
 しかし、成果はなく、二か月が過ぎるのだが…。
「ぼくのリュウ」
 まもるは犬が飼いたかった。
 犬の名前は「リュウ」と決めており、いつもリュウのことを考える。
 だが、両親は決して犬を飼うことを許してはくれない。
 ある日、彼は河原で捨て犬を見つけ、この犬こそリュウだと確信する。
 両親も遂に根負けし、まもるは晴れてリュウを飼うことになる。
 以来、まもるとリュウは大の仲良しで、何をするにも一緒であった。
 ある日、まもるはドーベルマンに襲われるが…。

・「逢魔が時」(「月刊ハロウィン」1988年9・10月号)
「結婚式の一月後、杲(あきら)の乗った車が事故を起こし、炎上する。
 命は助かったものの、全身大やけどで、以前の面影は全くなくなっていた。
 更に、神経をやられたため、車椅子の身で、声帯も潰れたため、意思疎通もろくにできない。
 それでも、妻の美緒は離婚はせず、彼の面倒を看る決意をする。
 彼女は献身的に尽くすものの、徐々に彼に対して「怖い」という思いを抑えることができなくなる。
 それは彼女の一挙一動を監視しているかのような視線のせいであった。
 その視線は、杲の友人の勇司の目を彷彿させる。
 勇司は美緒に横恋慕しており、結婚後も彼女をストーキングしていた。
 そして、勇司はここ最近、行方をくらましていた。
 美緒は杲が本当は勇司なのではないかという疑惑に囚われていく…」

・「闇の哄笑」(「月刊ハロウィン」1988年11・12月号)
「西岡中学校。
 茉莉は幼稚園の時から川田利子と仲良しであった。
 利子はブスで頭も悪く、大人しかったために、いじめの恰好の標的になる。
 茉莉はいつも彼女をかばっていたが、ある日、茉莉がボーイフレンドと映画を観に行くのを誘った直後に、利子は団地の屋上から飛び降り自殺をする。
 遺書には「もうこれ以上いじめられるのはいや」と書かれていた。
 と言っても、彼女をいじめていたのは大勢いて、誰のせいなのかはっきりしない。
 茉莉は何が自殺の原因なのか突き止めるため、いろいろと調査を開始するが、逆に謎は深まるばかり。
 ある日、彼女は利子の家を訪ね、利子の母親から利子の日記を預かる。
 母親によると、利子は生前、学校に「いやーな悪魔」が三人いると話していたというのだが…。
 利子の自殺の引き金になった人物とは…?」

 表題作の「逢魔が時」「闇の哄笑」は精緻な心理描写が光るサスペンス・ミステリーの傑作です。
 でも、個人的には、奇妙な復讐譚の「夜の向こう側」が単行本ベストです。
 足だけが踊るのって、猟奇的だけど幻想的…。

2023年6月7日 ページ作成・執筆

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