諸星大二郎「栞と紙魚子の生首事件」
(1996年9月25日第1刷・1998年9月25日第7刷発行)

 女子校生コンビの栞と紙魚子。
 栞は新刊書店の娘で、紙魚子は古本屋、宇論堂の娘。
 彼女達は毎回、おかしな事件に巻き込まれる…。

・「生首事件」(1995年「ネムキ」VOL.23)
「胃の頭町内でバラバラ殺人事件が発生する。
 頭部だけが発見されなかったが、実は、第一発見者の栞がこっそり家に持ち帰っていたのであった。
 父親のクーラーボックスに入れていたものの、生首の処理に困り、彼女は紙魚子に相談する。
 紙魚子が家から持ってきたのは、「趣味と実用シリーズ 生首の正しい飼い方」という本であった。
 本に従い、栞は水槽で生首を飼うことになるのだが…」

・「自殺館」(1995年「ネムキ」VOL.24)
「栞の親友の葉子が、ロック歌手の自殺に衝撃を受け、後追い自殺をしようとする。
 栞は「自殺マニュアル」のような本はないかと紙魚子に相談すると、紙魚子は「自殺のススメ」という本を探し出してくる。
 本にはある町にある「自殺館」を訪ねれば、目的を達することができると書かれてあり、栞、紙魚子、葉子の三人はそこを訪れる。
 入ってみると、そこはカレー屋で、マスターが言うには、本来は自殺相談所で、彼はボランティアのカウンセリングとのこと。
 二階に案内されると、そこは「自殺博物館」で、マスターは三人に「どんな方法で死にたいのか」尋ねるのだが…」

・「桜の花の満開の下」(1995年「ネムキ」VOL.25)
「紙魚子の案内で、栞、早苗(ヘアバンドの女の子)、マチコの四人は花見に出かける。
 だが、その場所は桜の枯れた巨木が立っているだけで、花は全く咲いていない。
 三春面太郎「古木探索」という本によると、この木では彼の妻が首吊り自殺をして、彼女の一回忌、三回忌、七回忌、十三回忌と彼女の命日に桜が咲いたのだと言う。
 しかも、三春面太郎も去年、この桜の木で首吊り自殺をしていた。
 彼女達が話をしていると、いつもの間にか、そばに花見をしている集団がある。
 彼らは昔風の格好をしており、桜は百年に一回、咲くと言うのだが…」

・「ためらい坂」(1995年「ネムキ」VOL.26)
「駅から三丁目に向かう途中にある「ためらい坂」。
 この坂には、嫌になっても、途中で引き返してはならないという言い伝えがあった。
 ある日、自転車に乗った栞は、急勾配にうんざりして、坂の途中で引き返し、別の道に行こうとする。
 すると、坂の下にケーキ屋があり、栞はケーキを買って帰る。味は上々。
 以来、栞は正体不明のタンクローリーにつけ狙われるようになる。
 更に、栞が立ち寄ったケーキ屋は存在せず、近所の人によると、十年前、タンクローリーがケーキ屋に突っ込んで、一家三人が亡くなったらしい。
 呪いを解く方法は、黄昏時に、坂の頂上から前回、引き返したところまで降り、登り切ればいいと聞き、栞と紙魚子は自転車に乗って、ためらい坂に向かうのだが…」

・「殺人者の蔵書印」(1995年「ネムキ」VOL.27)
「宇論堂で、栞は「虹色の逃走」というロマンス本を借りる。
 その本は、紙魚子の父親が仕入れたばかりで、値段がついていなかった。
 栞は、帰り道に、その本を読み進めて行くが、ミステリー風ラブ・ロマンスの内容が徐々にサイコスリラーに変化していく。
 しかも、主人公はジャックとエミリーから淳子と佐上幸二となり、舞台もイギリスから胃の頭町っぽい場所になる。
 その本を求めて、栞を追う男がいるのだが…」

・「ボリスの獲物」(1996年「ネムキ」VOL.29)
「栞の家の飼い猫、ボリス(♂)は外から奇妙な人形を拾ってくる。
 それは元の形は全く不明で、赤く汚い汁がたれているし、中には生ごみのようなものが詰まっているという代物。
 栞と紙魚子はその人形を一応、縫い合わせるが、目を離した隙にその人形が消えてしまう。
 そして、家ではあちこちでおかしなトラブルが…」

・「それぞれの悪夢」(1996年「ネムキ」VOL.30)
「紙魚子は、学校から帰宅後、文芸部の洞野が書いた同人誌を読む。
 洞野はホラーマニアで、彼の小説は「怖い」というよりは「笑える」内容であった。
 今回の小説のタイトルは「怪人ゾウ男の咆哮」。
 自分の部屋で、けらけら笑っていると、小説のストーリー通りに、彼女の部屋に近寄る者が…。
 一方、栞の家では、飼い猫のボリスが、全裸の中年男と化していた。
 どうも、栞が「人間だったらいいのにねー」と言ったことが原因らしい。
 ボリスに父親の服を着せるが、猫の習性のままに行動するので、栞はてんてこ舞いに…」

・「クトルーちゃん」(1996年「ネムキ」VOL.31)
「栞は、友人からベビーシッターのアルバイトを急に頼まれる。
 地図を頼りに行くと、お化け屋敷と言われていた家で、段一知という人物が越してきていた。
 段一知は奇行で知られるホラー作家で、人形のふりをして、栞を驚かす。
 また、彼の妻は恐ろしく巨大な顔で、「外国人」らしいが、どこの国の人間か定かでない。
 そして、栞が相手にする女児は、「ボリスの獲物」でちらっと出てきた、奇奇怪怪なクトルーちゃんであった。
 そのあまりに奇想天外な振る舞いに栞は引きずり回される。
 しかも、クトルーちゃんのペットのヨグは、これまた「ボリスの獲物」に出てきた、あのぬいぐるみで…」

・「ヨグの逆襲」(1996年「ネムキ」VOL.32)
「栞の飼い猫のボリスが行方不明になる。
 紙魚子から、段先生の家付近で見かけたとの情報があり、二人はそこを訪れる。
 段先生の了解を得て、二人が庭を調べると、ボリスの首輪が見つかる。
 どうやら、この家のどこかにいるらしく、二人は手分けして調べることにする。
 紙魚子はある部屋に床が重なっているところを見つけ、それを開いてみるのだが…。
 ボリスはどこに…?」

・「ゲッコウカゲムシ ―月光影虫―」(1995年「ネムキ」VOL.28)
「近くの小さな公園に満月の夜、子供の幽霊が出るという噂が流れる。
 その幽霊は影だけしか存在しないらしい。
 噂を確かめるべく、栞、マチコ、早苗の三人が夜の公園に行くと、ジャングルジムやブランコで子供の影が遊んでいる。
 早苗とマチコは驚いて、逃げてしまい、栞一人になった時、紙魚子と出会う。
 紙魚子は虫取り網を持っていて、昆虫採集に来たという。
 彼女が探している虫は「不思議昆虫図鑑」に載っている「ゲッコウカゲムシ」で、虫カゴの中には影だけの虫が一匹入っていた。
 栞は紙魚子から網を借り、男の子の影を一人、捕まえて、持ち帰る。
 だが、栞の影は男の子の影と仲良くなって、勝手に動くようになり…」

 諸星大二郎先生の代表作の一つ、「栞と紙魚子」シリーズ。
 諸星先生の作品というと「難解」なイメージがあるかと思いますが、これは諸星版「うる星やつら」と言ってよろしいかと。(注1)
 諸星先生、この作品に、自分の趣味や好みを好き放題に投入したらしく、奇人変人はもちろんのこと、物の怪からラヴクラフトまで面妖極まるキャラが縦横無尽に暴れまくり、スッチャカメッチャカになるところを、巧みなストーリー・テリングで、超一級のエンターテイメント作品に仕立てあげております。
 一見、ライトなノリですが、読めば読む程、「深み」にはまってしまうのは、諸星先生独特の、関節の外れたようなユーモア・センスのためでしょう。
 「妖怪ハンター」や「暗黒神話」といったあたりに二の足を踏む初心者にも充分お勧めできる作品です。

・注1
 「文藝別冊 諸星大二郎 マッドマンの世界」(河内書房新社/2015年5月30日発行)収録の高橋留美子先生との対談を参照のこと。

2021年11月22日・12月24日 ページ作成・執筆

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