諸星大二郎「蜘蛛の糸は必ず切れる」(2007年9月10日第一刷発行)
収録作品
・「船を待つ」(「小説現代増刊メフィスト」2005年9月号)
「小さな寂しい入江。
元・倉庫の宿泊所に寝泊まりしながら、僕は船を待つ。
船はいつ来るか全くわからず、宙ぶらりんのまま、無為に時間が流れて行く。
食堂で働くオモちゃんと一緒に船で行きたいと漠然と願うも、彼女は船に乗る「理由」がないと答える。
ある日、船が翌日に来ると宿泊所の人々は知らされるのだが…」
・「いないはずの彼女」(書き下ろし)
「S商事に勤めるOL。
彼女は「存在」しているのだが、それは「噂」の中だけのことで、誰も彼女のことははっきりと知覚できない。
彼女のことをあまり話題にすると、悪いことが起きると言われているのだが…」
・「同窓会の夜」(「小説現代増刊メフィスト」2006年1月号)
「俺は、S駅の階段下で楮谷(こうぞだに)と出会う。
楮谷から中学の同窓会があると聞き、俺は、同級生だった梶の営む酒店へ行って、奥さんから同窓会の葉書を見せてもらう。
しかし、詳しい場所がわからず、途方に暮れていると、同級生の吉田を見かけ、喫茶店での集まりに加わる。
そこで、楮谷が死んだという話が出るが、詳しいことはわからない。
彼らと共に、同窓会に行くと、楮谷、梶、柿崎の三人組の話がどことなく出てくる。
この三人組は「ミステリーサークル事件」「銅像の落書き事件」と騒ぎを起こしていた。
だが、彼らのいたずらは徐々に陰湿なものになっていく。
そして、中学校の中に殺人者がいると書かれた怪文書…。
彼らは何故か楮谷達の話をし続けるうちに、意外な事実が次々と明らかになる…」
・「蜘蛛の糸は必ず切れる」(「小説現代増刊メフィスト」2006年5月号)
「釈迦牟尼が「ひとつの思いつき」から蜘蛛の糸を蓮池から地獄の血の池に垂らす。
糸を目にした極悪人のカンダタ(注1)は、喜ぶよりも先に罠ではないかと訝るが、「地獄のシステムから外れた存在」だと確信する。
彼は糸を掴んで、登っていくものの、遥か下方で、多くの亡者が蜘蛛の糸に殺到しているのを見て、恐怖に駆られる。
彼は身体を振子のように揺らし、蜘蛛の糸が切れる寸前で、かろうじて岩山の一つにとびつく。
「地獄のシステム」から自由になったカンダタは、監視の目をかいくぐり、また、システムの裏をかき、蜘蛛の糸を取り戻そうとする…」
カフカ風(注2)の「船を待つ」、都市伝説を題材にした「いないはずの彼女」、ミステリアスな幽霊譚「同窓会の夜」、芥川竜之介「蜘蛛の糸」に着想を得た「蜘蛛の糸は必ず切れる」と、どれも読み応えのある一冊です。
個人的なお気に入りは「同窓会の夜」と「蜘蛛の糸は必ず切れる」。
特に、「蜘蛛の糸は必ず切れる」は大傑作で、あまりの面白さにページを繰る手が止まりません。
地獄を巨大な「管理システム」ととらえ、そのコントロールからの逃走を描いた冒険譚で、カンダタのあの手この手がなかなか痛快です。
また、社会風刺もビリリと効いております。(元・公務員だから?)
・注1
「カン陀多」の「カン」は「牛へんに建」という漢字なのですが、変換しても出てこないので、片仮名の表記にいたしました。
・注2
イタリアの作家、ブッツァーティー「タタール人の砂漠」っぽい…のかな…?
2021年11月22日/12月21・28・31日 ページ作成・執筆