関よしみ「正義の方舟」(1998年4月1日初版第1刷発行)

 収録作品

・「正義の方舟」('97「月刊ホラーM6月号」初出)
「修学旅行に出かけなかったために、命拾いした、七人。
 主人公の中沢五月、友人の橋本美波、クラス長の北園正義(まさよし)がり勉の上田一流(いちる)、尻軽な遊び人の霜条、不良の東誠志、そして、小西光。
 五月と東を除いた四人は、旅行で恐ろしいことが起こることを予言した小西光を信奉するようになる。
 小西光は祖父と二人暮らしで、「地球」(ガイア)の声を聞くことができるらしい。
 小西の言うことによれば「地球」(ガイア)の怒りは高まる一方で、このままでは人類は絶滅するしかない。
 四人は最後の審判を生き残るために、必死の活動を行うが、五月はどうも入り込めない。
 そして、6月6日に「最後の審判」が下されるというメッセージが北園正義にあり、東を除いた六人は、小西の家の地下にあるシェルターに避難するのだが…」
 異色作だと思います。
 主要人物のほとんどが狂信的もしくは「電波」君でありまして、感情移入がしづらいです。
 いや〜、このマンガを読んでいる時に、脳裏をかすめたのは、故・池川伸治先生でありました。
 池川伸治先生のマンガには、確固たる信念の下、なりふり構わず自分の道を猪突猛進するキャラがてんこ盛りでして、この作品とオーバーラップしてしまうのです。
 まあ、今、こうやって好き勝手なことを言えるのも、1999年のハルマゲドンを(気が付いたら、何事もなく)乗り越えたからでありましょう。
 今となっては、ノストラダムスの大予言なんてお笑い種にすぎないでしょうが、小学生の頃、本を読んで震え上がった記憶のある私には、当時の空気をちょっぴり感じられるのであります。
 それにつれても、ノストラダムスがあんな人騒がせな予言をしなければ、関よしみ先生が漫画家になることもなかったいう不思議…。

・「ミラクル・カプセル」('97「月刊ホラーM7月号」初出)
「あるマンモス団地。
 皆が皆、好き勝手に暮らし、住民は皆、ストレスフル。
 そこへ新しくできた薬局では、何にでも効くという「万能薬」が売られていた。
 最初に錠剤を呑んで、後は一時間ごとにカプセル薬を飲むだけ。
 それだけで、人々はストレスから解放され、明るく爽やかな人間に生まれ変わる。
 薬嫌いな父親を持つ、日下部今日子は、団地の住民やクラスメートが薬によって「健康的」になっていくのを目の当たりにするが…」
 ネタバレかもしれませんが、「ボディ・スナッチャー」の変種でありましょう。
 向こうさんに「悪意」というものがさらさらないのが、逆に怖いかも…。

・「二者択一」('97「月刊ホラーM増刊 ホラー&スプラッターVol.1」初出)
「司城家は複雑な家庭。
 涼美、菜々美の姉妹がいるが、旧式な祖父母は男児の誕生を待ち望む。
 だが、母親は身体が弱く、妊娠中毒症を起こし、母子ともに危険な状態になる。
 男児を選ぶか、母親を選ぶか…厳しい選択は、幼い菜々美に託される。
 しかし、選択を迫られる問題はこれだけにとどまらず、菜々美を追い詰め、次は涼美にも迫るのであった…」

・「殺意のおとし穴」('98「月刊ホラーM2月号」初出)
「裕木沙耶は、病弱な弟の薫が大嫌い。
 病気というだけで両親に構ってもらい、その関心を独占している、と沙耶は思う。
 弟への憎悪が殺意にまで高まった時、沙耶は弟の部屋のヒーターを切り、窓を開け放しておく。
 翌朝、弟は凍えて瀕死になっているかと思いきや、風邪一つひかず、いつも通りであった。
 薫は、タバコの吸い殻を漬けた液を飲ませたり、階段で転ばしたりするが、弟は平然としている…」
 小品「死にたいの」(「マッドハウス」(講談社)収録)のバリエーションであります。
 子供の心理描写をきめ細かく描いている点で、「殺意のおとし穴」の方が(残酷度は遥かに劣りますが)いいと思います。

2016年1月3〜5日 ページ作成・執筆

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