曽祢まさこ「悪い舌 見せしめ刑の町」(2016年4月1日初版第一刷発行)

 収録作品

・「悪い舌」(「まんがグリム童話」2015年11月号・初出)
「エマの住む町には悪舌法という法律があった。
 悪舌法とは、簡単に言うと、人の悪口を言うと、罰せられるという法律である。
 最初は罰金で済むが、二度目からは実刑になり、金属製の轡(くつわ)をはめられ、町の中央広場にあるさらし台にて晒し者にされるのであった。
 祖母と二人暮らしのエマは、14歳の時、愛人と出奔した母親から援助を得て、勉学のため、都会に出る。
 だが、十年後、都会生活に疲れ、エマは故郷に戻り、図書館の司書として、つつましい生活を送る。
 図書館で働くうちに、エマはケイト・フィンチという上品な老婦人と知り合う。
 この老婦人は四十年も前に、実の姉を何度も悪舌法で訴えていた。
 エマはケイト・フィンチと付き合いを深めていくが、非常に温厚かつ親切な女性で、とてもそんなことをする人物には思えない。
 そんな時、エマは旧友のミシェルから悪舌法で訴えられる。
 エマには全く身に覚えのないことであったが、、同じく旧友のルーシィと、エマにしつこく付きまとっていたヴィクターもその証人になると言う。
 実は、エマは都会にいた時、一度悪舌法に触れており、次に訴えられたら、公開処刑の身であった…」

・「愛されたい娘」(「まんがグリム童話」2016年3月号・初出)
「エルザとアニタの姉妹。
 エルザが幼い頃から、母親はアニタばかりを可愛がり、十五歳を過ぎてからは、エルザは使用人同然に扱われる。
 エルザが十六歳の時、ふとしたきっかけで隣町のブルックス家から嫁として迎えられる。
 しかし、エルザの夫には愛人と二人の子供がおり、相続権のためだけにエルザと結婚したのであった。
 結局のところ、夫の世話係でしかなかったが、エルザは分相応と、逆に安らぎを得る。
 夫はほとんど家にはおらず、その間、エルザは姑に甲斐甲斐しく尽くす。
 七年後、姑が亡くなった時、姑の財産を相続したエルザは、夫と離婚し、姑の持っていた農園で暮らすこととなる。
 その農園は実家に近く、久方ぶりに見る実家は荒れ果てていた。
 エルザが実家を訪れると、酒浸りになった母親が一人。
 アニタは家の全財産を持って、学校の教師と駆け落ちしてしまったと言う。
 過去がどうあれ、血のつながった親子、エルザは母親を自分の屋敷に引き取るのだが…」

・「聖なる瞳に魅せられて マグダラのマリア」(「ほんとうに怖い童話」2015年6月号・初出)
「ローマ支配下のイスラエル。ガラリア地方、マグダラの町。
 奔放な振る舞いから、皆から毒婦と嫌われている、若い未亡人、マリア。
 マリアは、救世主との噂のある、ナザレのイエスが町を訪れていると聞き、会いに行く。
 だが、そのあまりに澄んだ瞳を一目見て、マリアは途轍もない羞恥心に心を引き裂かれる。
 以来、改心したマリアは、イエスを慕い、共に行動するようになる。
 しかし、商才を発揮してイエスを手助けするユダにとっては、財産家であり、また優れた商才を持つマリアは必要でありながらも、目の上のたんこぶであった。
 そうして旅を続けながら、遂にイエス一行はイスラエルの都、エルサレムに入る…」
 読み終わって、「ほんまかよ?!」って思いました。
 まあ、イエスもぶっちゃけ「人間」でありましたから、ありえない話ではないでしょう。(注1)
 それにしても、イエス・キリストよりもユダの描写の方が興味深かったです。
 太宰治「駆込み訴え」(注2)のことが頭の隅っこにあるせいかもしれませんが。

・「毒花」(「ほんとうに怖い童話」2015年9月号・初出)
「ある田舎町。
 町の皆から慕われる老婦人、エリナ。
 一人娘は、誠実は医者と結婚し、孫娘にも恵まれる。
 傍から見ると、気のいいお婆ちゃんでしかないエリナの本当の姿とは…?」
 曽祢まさこ先生の「実感」がこもりまくっているためか、出来はこの単行本の中ではピカイチではないでしょうか?
 後書きを読んだ後で再読すると、いろいろと込み上げてくるものがあります。

・「作品解説というよりはぐだぐだ話」
 曽祢まさこ先生の作品の核の一つ、自分の「toxic」な母親について語っております。
 この単行本の中で一番ヘビーかも。

・注1
 何の本かは忘れましたが、あるスピリチュアリズムの本によると、霊界にはイエス・キリストの生涯を正確に記した本があるそうですよ。
 この世にある「聖書」は嘘っぱちだらけとのことなので、だったら、何らかの方法で、さっさと地上界の人間も読めるようにすりゃいいのに。
 「御上」の連中の考えることはよくわからん…。

・注2
「走れメロス」(新潮文庫)収録。

2016年8月1・2日 ページ作成・執筆

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