蕪木彩子「虫屋の花嫁」(1997年12月1日初版第1刷発行)

 あらゆる虫に精通した「虫屋」。
 彼が提供する虫はどんな願いでも叶えてくれる。
 だが、それには高い代償が…。

・「虫けらの手を出すな」(「月刊ホラーM」1995年12月号)
「妃奈子はいじめられっ子の典恵を助けたことによって、いじめっ子の真紀たちに目を付けられる。
 担任の教師に相談するも、逆にチクったと言われ、クラス全員から「虫けら」扱いされる。
 典恵は知らんふりをし、友人の由美も彼女から離れ、担任も親も何の助けにもならない。
 遂に、彼女は林の中で首つり自殺をする。
 その死体を虫屋が見つけ、「怨み虫」によって、彼女を蘇生させる。
 そして、妃奈子は、いじめによって自殺した少年少女達と共に、復讐を開始する…」

・「美しき虫恐怖」(「月刊ホラーM」1996年11月号)
「美加は自分の美しさを鼻にかけた高ビ〜女。
 取り巻きを引き連れ、他人の容貌を貶め、今日も得意顔。
 だが、憧れの晴彦に彼女がいたことから、彼女のプライドはもろくも崩れ去る。
 晴彦の彼女は小学校からの知り合い、ことみであった。
 ことみはアレルギー皮膚炎だったが、今は完治したらしく、別人のように可愛くなっていた。
 ある時、美加は女子便所でことみを見かける。
 彼女はセーラー服を上げて、腹部を鏡に映していたが、腹部には根っこのようなものが浮き出ていた。
 美加はことみに秘密があると考え、彼女の帰りを尾行する。
 ことみが帰宅途中に寄ったのは「虫屋」で、彼女はそこで「美し虫」のカプセルをもらっていた。
 美加はそのカプセルに目を付け、ことみが体育の授業の時、鞄からカプセルを盗み出す。
 これで美しくなるかと思いきや…」

・「虫の眠り 虫の夢」(「月刊ホラーM」1996年12月号)
「小夜子は先の見える人生に飽き飽きしていた。
 母親に言われるまま、名門女子大付属校に入学し、エスカレーターで大学に進み、結婚して、子育てをして…と考えるだけでウンザリ。
 同じ虚しさを、家庭教師の二宮も抱いており、彼女は小夜子に「眠り虫」のことを教える。
 「眠り虫」は外見は蜂だが、死人の脳の肉汁を吸い、これに刺されると、その脳の「幸せだった記憶」を夢見ることができるという。
 小夜子は「虫屋」に出かけ、「眠り虫」とその餌となる脳を買い求める。
 この脳は「一生を小説家として幸せに送られた女性の脳」なのだが…」

・「首の飛ぶ少女」(「月刊ホラーM」1997年1月号)
「千晶は、妹のいたずらで「飛び虫」を食べさせられ、夜、寝ている間に、首が胴体を離れて、飛び回るようになる。
 彼女はこれを利用して、憧れの有吉先輩の私生活を覗きまくり。
 邪魔な真奈美を喰い殺し、先輩に接近しようと考えるが、首が飛ぶことを妹の友香に知られてしまい…」

・「虫屋の花嫁」(「月刊ホラーM」1997年3月号)
「螢は右目の下から右肩にかけて醜い火傷の痕があった。
 これは粗暴な義父が彼女に煮えたぎった油をかけたためで、後に母親は亭主を殺し、螢と無理心中を図る。
 生き残った彼女は母親の遠縁の夫婦に引き取られるが、この夫婦の間に美咲という娘ができると、途端に、螢を邪魔者扱いするようになる。
 学校でも家でも居場所のなかった彼女の唯一の友達は、幼い頃からの知り合いの「虫屋」のお兄ちゃんだけであった。
 螢は高校までは行かせてもらえたものの、大学進学は許されず、と言っても、醜い傷痕のため、就職もできず、家で家事手伝いをする。
 だが、数年後、螢が憧れていた正輝と美咲が婚約したことを知り、螢は…」

 「虫屋」シリーズの三冊目です。
 後ろの袖に「最近では、虫屋もいい人になったものだ、というウワサさえ聞きます」と書いてある通り、「虫屋」の生真面目で心優しい面に光を当てるようになっております。
 そのために、ストーリーは勧善懲悪がはっきりしていて、読後感は(他の蕪木作品と較べると)清々しいです。
 特に、表題作の「虫屋の花嫁」には、蕪木作品ではなかなかお目にかかれない「純愛」を扱っていて、のけぞりました。(でも、やっぱり、内臓ドバドバ・シーンがあります。)

2023年3月7・16・17日 ページ作成・執筆

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