犬木加奈子「不気田くんA」(1996年8月1日初版第一刷発行)

 「永遠の恋人」を求めて、さすらう不気田くん(本名は、木田不美男(きだ・ふみお))。
 彼に目を付けられた少女達の運命は…?

・「第七話 天使のラブソング」(1994年「月刊ホラーM」11月号初出)
「青空ひばりは、コーラス部に所属する少女。
 転校早々、不気田は、彼女の美声に惚れる。
 彼は、自分の人形を彼女に渡し、その人形は夜な夜な、彼女にラブソングを届ける。
 だが、その声色はあまりにひどく、彼女は憔悴していく。
 更に、彼女が歌おうとするたびに、不気田の面影が頭をよぎり、歌に集中できない。
 ある夜、彼女は、不気田の人形の仕業であることを知る。
 翌日、彼女は不気田を呼び出し、徹底的に彼を拒絶するのだが…」

・「第八話 鏡の国のアリス」(1995年「月刊ホラーM」8月号初出)
「香上亜里須は、一見は美人だが、髪で隠された顔の右半分は醜いコブで覆われていた。
 苦悩する彼女のもとに、不気田が現れ、自分なら「彼女をまるごと愛せる」と断言する。
 そして、不気田は彼女に、彼に永遠の愛を誓うのなら、鏡の魔力によって、彼女を美しくしよう、と持ちかける。
 不気田は、鏡の中の彼女から美しい顔半分を、また、醜い顔半分を、鏡の中の彼女へと交換する。
 こうして、亜里須は美しくなるが、不気田と常に一緒にいるのが耐えられなくなり…」

・「第九話 人形の家」(1995年「月刊ホラーM」11月号初出)
「ずっと昔、不気田が少年だった頃。
 彼は、ドンナという少女を中心とした女の子達の人形遊びに興味津々であった。
 少女の分身である人形に魅了され、彼は人形の正体を知りたいと願うが、果たされない。
 そこで、彼は、人形を手に入れるため、家の地下室に「人形の家」を作りあげる。
 不気田はドンナにその「人形の家」を見せ、「人形の家」を自由に使っていい代わりに、彼女の人形を家に置いておくよう条件を出す。
 こうして、人形を手に入れた不気田は、彼女の人形の魔法を解き明かそうとするのだが…」

・「第十話 モナリザの肖像」(1996年「月刊ホラーM」3月号初出)
「門間リサは、部員が三人(うち、二人は幽霊部員)の美術部部長。
 学園祭の絵画展をきっかけに、不気田はリサと知り合う。
 不気田は美術部に入部し、彼女とお近づきになろうとするが、リサは絵を描くことにしか情熱を持たない人間嫌いであった。
 不気田に計略にはまり、二人は互いの人物画を描くこととなる。
 リサは、不気田への憎しみを絵にぶつけ、彼が死にゆく姿を絵に描く。
 一方の不気田は、モデルのリサと、作者である不気田との仲が徐々に接近していくという絵を描いていく。
 リサは、不気田が描く絵によって、現実の自分を自由にできることに気付き、不気田を衝動的に刺殺。
 不気田の死体は、彼女が描いた絵の通りであった。
 それならばと、彼女は絵を墓場に描きかえるのだが…」

・「怪奇玉手箱」(1992年「増刊本当にあった怖い話 Vol.1」)
 「押入れ」と「金縛り」に関する、犬木加奈子先生の怪奇体験。

 「ホラーハウス」休刊を経て、犬木加奈子先生は「ホラーM」で「不気田くん」の続きを描くこととなりますが、余程、描きたかったテーマなんでしょうか、テンションが違います。
 この単行本はどの作品も完成度が高いと思いますが、個人的なお気に入りは「天使のラブソング」と「モナリザの肖像」。
 特に、「モナリザの肖像」は、絵画を題材にした怪奇漫画の傑作の一つではないでしょうか?
 門間リサの顔からはみ出しまくった眼と、悲惨なラストが実に印象的です。

2020年2月17・18日 ページ作成・執筆

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