犬木加奈子「不気田くんB」(1999年1月1日初版第一刷発行)

 「永遠の恋人」を求めて、さすらう不気田くん(本名は、木田不美男(きだ・ふみお))。
 彼に目を付けられた少女達の運命は…?

・「第十一話 愛の観察日誌」(1996年「月刊ホラーM」9月号(前編)・10月号(後編)初出)
「八瀬鯛子は、お肉たっぷりてんこ盛り娘。
 彼女は、不気田の一途な愛情表現に魅せられ、彼に愛してほしいと願うようになる。
 彼女の訴えに心動かされ、不気田は「永遠にボクだけを愛するのなら…どんな姿にでもしてやる」と約束する。
 夏休み、不気田は彼女を自分の屋敷に招き、「蝶の体液から偶然できた薬」を体内に注入する。
 彼女の身体は変化していき、夏休みが終わりに近づく頃、肥大したサナギから美しい蝶へと脱皮する。
 彼女は不気田に「永遠の愛」を捧げようとするが、彼女の考える愛は肉体的な次元に留まるものであった。
 愛に対する考えの相違から、鯛子は一人、夜の町に出ていくのだが…」

・「第十二話 赤い糸の伝説」(1997年「月刊ホラーM」7月号初出)
「その昔、人を愛する心を持たない王子がいた。
 だが、彼を見た娘達は皆、彼を愛してしまう。
 ある時、一人の乙女が、真実の心を示すため、「深紅の花嫁衣裳」を縫い上げる。
 しかし、王子から「真実の心」は「心臓の血の色」だと言われ、乙女は自分の心臓に糸車の針を突き刺し、血の最後の一滴まで、衣装を染め上げる。
 その最後の一滴に、乙女は、王子に「誰からも愛されることがない」という呪いをかけ、彼の心臓を掴み出すと、黄泉の国へと行ってしまう。
 以来、彼は「真実の愛」を求めて地上をさまようこととなる。
 それから、幾年たっただろうか、王子であった頃の記憶さえほとんど忘れかけていた不気田は、その乙女の面影を持つ娘と巡り合う。
 彼女は、荒木九根子(あらき・くねこ)といい、男に媚びを売ってはいるものの、興味は編み物だけであった。
 一年中、何かしら編んでおり、永遠の愛を誓った人のためと言ってはいるが、完成したことはない。
 不気田は、彼女こそが、彼に呪いをかけた乙女、アラクネの転生だと確信する。
 そして、彼女を、赤い糸の魔法で、誰にも気づかれない場所に誘い出し、もう一度、赤い糸で花嫁衣裳を編むよう強要するのだが…」

・「X−ファイル」(1998年「月刊ホラーM」2月号初出)
「女子生徒の山田は、前回の騒動で不気田に興味を持つ。
 彼女はネット等で情報を収集し、不気田に関する「不気田Xーファイル」を作成。
 そのうちに、彼女は、不気田が人間ではないことを知る。
 だが、一方で、一人の女性を一途に想い続ける不気田に、心惹かれていく。
 ある時、彼女の「不気田X−ファイル」をクラスメート達の知るところとなり、彼らは不気田をリンチしようとする。
 山田は、自分の想いが不気田に届かぬことを知り、この騒ぎに乗じて、不気田を毒殺を図る。
 そして、彼をクラスメート達から匿うのだが、不気田には変化が起きていた…」

 単行本の第三巻では、不気田の過去が明らかにされて、ストーリーは佳境に入ります。
 思春期の少年少女の心情を巧みにストーリーに盛り込み、ぐいぐい読ませます。
 「永遠の愛」「真実の愛」があると夢想できるのは、思春期の頃だけで、その儚さ・危うさが作品の核なのかもしれません。(個人の感想です。)

2020年2月17・19日 ページ作成・執筆

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