岸本加奈子「虫」(1998年1月1日初版第1刷発行)

・「虫」(「恐怖の快楽」1996年6月号)
「OLの飯田祥子(21歳)の不倫相手、鈴木課長が突然、行方不明になる。
 しかも、鈴木課長は会社の金を使い込んでおり、警察が動き始めていた。
 不安に駆られる祥子は、自分の机に差出人のない封筒があるのを見つける。
 封筒の中の手紙には、話があるので、あるマンションに来てほしいと書かれてあった。
 夜、彼女はそのマンションを訪れる。
 呼び鈴を押しても、誰も出てこず、訝っていると、隣の中年女性が声をかけてくる。
 その部屋の住人に今、出かけていると伝言を残されたということで、勧められるまま、祥子は中年女性の部屋で帰りを待つ。
 その女性の部屋はきちんと片付いているのに、やけにゴキブリが多い。
 しかも、中年女性は素手でゴキブリを叩き潰していた。
 中年女性によると、これは「虫の復讐」だというのだが…」

・「かんちがい」(「恐怖の快楽」1995年第6号(「イカしてソーロウ)1月28日号増刊号))
「平成七年十月。東京世田谷区。
 山田はある工場で作業員として働く、陰気で不細工な青年であった。
 彼は近所の美帆という女性にひそかに想いを寄せる。
 ある日、彼は会社の女社員にからかわれ、美帆を彼の恋人だと教える。
 会わせるよう言われ、山田は美帆に話しかけようとするも、なかなか機会がつかめない。
 彼は一人、妄想を募らせていくが、彼女には亭主と子供がいることがわかり…」

・「ささいな事」(「恐怖の快楽」1996年8月号)
「三沢圭子は同じ会社の堤義郎と二年間、付き合っていた。
 だが、彼とデートをした日から、彼女の身辺で妙なことが起こり始める。
 電車や駅の階段で何者かに押され、夜道では尾行される。
 宅配の牛乳には異物を混入され、更には、マンションのドアに植木鉢のトラップまで仕掛けられていた。
 彼女は誰も彼が疑わしく思え、義郎に助けを求める。
 だが、彼には会長の娘との縁談が持ち上がっていることを知り…」

・「真綿の罠」(「恐怖の快楽」1997年6月号)
「亜由美は、前のパート先の社員、大塚と不倫をしていた。
 時間が遅くなり、早く帰ろうと焦っていたところ、前の車が急ブレーキを踏み、衝突してしまう。
 車には大塚も同乗しており、彼女は警察を呼ぶよりも、示談を選ぶ。
 相手は、喫茶店を経営する平尾茂という男性で、その優しそうな外見とは裏腹に、車の損害、治療費、店を休業している間の補償等、亜由美は際限なくたかられることに…」

・「つぐない」(「ラ・コミック」1994年3月号)
「OLの岡本淳子は林課長と不倫関係にあった。
 ある頃から、淳子は無言電話や、嫌がらせの手紙に悩まされるようになる。
 手紙には彼女の行動がこと細やかに記されていた。
 林課長に相談すると、彼の妻の仕業ではなさそうであったが、念のため、しばらく会わないよう提案される。
 しかし、その後で、彼女は、林課長が、不倫で左遷された部長の代わりに昇進するという話を耳にする。
 自分は邪魔になったと、彼女は林と別れる決意をするのだが…」

 岸本加奈子先生のレディース・コミック誌(「恐怖の快楽」)での作品集です。
 大阪生まれのせいか、少女雑誌で怪奇漫画を描いていた頃から「濃い」印象がありましたが、レディース・コミックになると、もう「コテコテ」。
 濃厚な絵柄が、陰惨極まりないストーリーと絶妙にマッチして、「イヤなリアリティー」をドリアンのようにぷんぷん醸し出しております。
 岸本加奈子先生はレディース・コミック界でいまだに活躍されており、怪奇漫画もかなり描いているはずなのですが、レディースの怪奇漫画に関しては、残念ながら、この一冊のみです。
 一冊にまとめて読めるようにしてくれないものでしょうか。(それは多くのレディコミ作家について言えることですが…。)

2023年1月16・17日 ページ作成・執筆

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