関よしみ「ウイルスの牙」(1997年6月1日初版第1刷発行)

 収録作品

・「ウイルスの牙」('97「月刊ホラーM2月号」初出)
「木村仁美のクラスは、大学受験を前に、皆、ストレスで一触即発状態。
 そんな最中、致死率が非常に高いインフルエンザが日本に上陸、猛威を振るい始める。
 パニック状態になった人々は、生き残るために、エゴをむき出しにするのだった…」
 シチュエーション・ホラーの名作です。
 私としては、数年も前に神戸でインフルエンザ騒動があった時に、その騒動を目の当たりにしたことがあり、このマンガには妙な実感があります。
 ドラッグストアに人が押し寄せ、マスクは瞬く間に完売、うがい薬や消毒薬、ハンドソープも片端から店頭から消えていった光景をいまだはっきり覚えています。
 確かに、病原菌は目に見えないものですから、それだけでも充分怖いものです。
 ましてや、未知の病原体かつ致死率が高いとなると、パニックになってもおかしくはありません。
 実は、先見的なマンガだったのではないか、と私は考えております。

・「最後の祝宴」('96「月刊ホラーM4月号」初出)
「花園女学院の卒業式。
 演劇部の一同は、先輩の送別会をすることになる。
 場所は、父親が映画監督、母親が女優と言う鮫島涼子の屋敷。
 両親の留守に便乗して、派手に送別会をするが、そのうちに、ワイン等のアルコールが入り始める。
 無礼講と皆、調子に乗って飲んでいるうちに、徐々に各人の本性が露わになっていき…」
 酔っ払いを活写し得た、空前絶後の傑作だと私は信じております。
 ろれつの回らない女子高生達がいろいろな理由で一人、また、一人で死んでいく様は(「マダムと泥棒」ちっく?)、ブラック・ユーモア炸裂で、一線を突き抜けています!!
 こういう小欄でごちゃごちゃ書いても仕方がありません。
 とにもかくにも、酒で失敗した経験のある人は、是非とも読んでください。
 そして、前の晩に飲み過ぎてふらつく頭を抱えつつも、どうにか今日一日を生き抜くパワーをもらいましょう。

・「憎しみの行方」('94「月刊ハロウィン11月号」初出)
「三年来の付き合いのボーイフレンドに急に捨てられ、目の前が真っ暗な矢野彩子。
 心の中は憎しみではち切れんばかりで、思い余って自殺も考えるが、そんな彩子に見知らぬ青年が声をかける。
 その青年はレンタル・ショップのオーナーで、彩子に「幸せの天使像」を一月、無料で貸してくれる。
 青年が言うのは、この像は憎しみを吸い取る、いわば「憎しみの貯金箱」とのこと。
 半信半疑のまま、彩子はこの像を持ち帰るが、実際に、この像に触れると、心の中の憎しみが消え去り、その代わりに像が若干重くなる。
 また、憎しみを吸収するだけでなく、彩子のもとに幸運が舞い込むようになる。
 彩子は自分の思い通りにならないことに対する憎しみを片端から像に預けていくが…」
 憎しみを抑制できなくなり、他者への思いやりを失っていく過程がリアル。
「権力者」とはこうしてつくり上げられるものかもしれません。

・「舌の記憶」('96「月刊ホラーM6月号」初出)
「鋭敏な味覚を持つ、グルメアイドルの味神素子。
 同じくグルメの父親の英才教育もあり、その味覚は研ぎ澄まされていく一方。
 遂には、食材の記憶までをも「味わう」ことができるようになるが、食材が屠殺される際の記憶が素子を苦しめることとなる…」
 猟銃で顔面に穴があく描写が、「カニバリズム meets 地獄の黙示録」な映画「地獄の謝肉祭」を思わせて、ナイス!!
 んにしても、よそんちのビニールハウスに無断で侵入して、イチゴを食べまくる神経が凄い…。

 粒よりの作品が収録された、傑作単行本です。
 個人的には、名作「ウイルスの牙」よりも、「最後の祝宴」「憎しみの行方」「舌の記憶」といった、優れた着想と捻ったオチの効いた短編の方が、遥かに魅力的でした。
 我武者羅な程に極端な描写が関よしみ先生の売り(?)ではありますが、それが若干控えめになり、ストーリーの輪郭を崩すことがないため、短編の上手さを満喫できます。
「愛の墓標」や「魔少女転生」等が苦手で、関よしみ先生の作品はダメ!!、というような人にお勧めしたい単行本であります。
 そして、やっぱり「最後の祝宴」はサイコ〜です!!

・備考
 ちょっぴり自慢なのですが、一昔前、ある機会に、この単行本に直筆サインをいただきました。宝物です。

2016年1月3日 ページ作成・執筆

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