紫垣まゆみ
「吸血鬼のキス@」(1996年8月1日初版第1刷発行)
「吸血鬼のキスA」(1996年9月1日初版第1刷発行)
町はずれの洋館に住む三人の男子高校生。
大地柾(だいち・まさき)〜真面目で一途。男らしい。
天野司(あまの・つかさ)〜理知的でクール。
深海煌(しんかい・こう)〜童顔。明るく、フットワークが軽い。女好き。
実は彼らは吸血鬼で、花嫁を見つけるために人間界で暮らしていたのであった。
ある日、井号留(イゴール)が彼らを訪ね、長老からの伝言を伝える。
半年後に開かれる百年に一度の大集会までに花嫁を紹介しろとの命令であった。
気は進まないものの、彼らは相手を探すことにするが…。
・「彼女が逝った2月」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年2月号)
「大地柾は同じ教室でテニス部の岡本深雪に恋をしていた。
ある日、彼は深雪と駅まで一緒に帰る。
話の最中、彼女は「最近、夜中に黒い影が…」と言い淀み、結局、話すのをやめる。
そのまま別れるが、夜更け、柾は急に彼女の言葉が気になり始め、彼女の家を訪ねる。
家からは血の匂いが漂い、深雪は黒い影によってバラバラにされていた。
「黒い影」の正体は…?」
・「3月の川の底」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年3月号)
「深海煌の前に現れた桐野未知琉は幽霊であった。
彼女は一週間前、ボーイフレンドの小峰高也から別れ話を切り出され、脅しのつもりで橋から川に跳び下りたら、心臓麻痺で死んでしまう。
彼女の死体は橋杭に引っかかり、沈んだままで、しかも、目撃者の高也は彼女の死の責任を取るのが怖く、口を噤んでいる。
そこで、未知琉は煌に自分の死を両親に伝えてくれるよう頼む。
煌は断るものの、死後も小峰高也を思い続ける未知琉の姿を見て…」
・「出会いと別れの4月」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年4月号)
「三人は新入生たちの物色に出かける。
とは言え、恋愛と結婚はまた話を別で、木陰で相談していると、それを新入生の宇佐見友里に聞かれてしまう。
友里は三人が吸血鬼と知っても驚かず、天野司の婚約者に立候補する。
だが、彼女の目的は、吸血鬼を殺すことであった。
彼女の姉は吸血鬼に殺されたというのだが…」
・「5月の悪夢」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年5月号)
「佐山佳世は天文部の合宿でN高原を訪れる。
夜、トイレに起きた際、森の奥で物音が聞こえるので行ってみると、男が地中に死体を埋めていた。
以来、彼女はそれを夢に見るようになるが、夢の中で殺人犯に追われ、助けを求めると、何故か深海煌が現れる。
彼女は煌のことが気になって仕方なく、また、煌の方でもそれに気づき、彼女から詳しい話を聞く。
煌は通報する前に死体を確認する為、N高原にもう一度行くことを勧める。
佳世、煌、柾の三人はN高原に行き、死体を発見するが、三人を木の影から見つめている者が…」
・「6月に消えた鬼」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年6月号)
「夜、柾が人目のない道を歩いていると、鬼娘が現れる。
彼女は柾に自分を愛してくれるか尋ね、愛してくれなければ喰い殺すと襲いかかる。
柾は頬を引っ掻かれるも、鬼娘は柾が人間でないことを知り、退散する。
翌日、柾は学校で昨夜の鬼娘と再会する。
彼女の名前は浜崎聖美という二年生で、彼女の頭頂に角はなく、また、鬼の気配もなければ、その記憶もない。
しかし、彼女は柾に想いを寄せていた。
彼女の中に潜む『鬼』の正体は…?」
・「7月の再会」(単行本@/「月刊ホラーM」1995年7月号)
「天野司の友人、松井裕樹には悩みがあった。
彼は一月前からS女子学園の川瀬亜純と付き合い始める。
彼女の前の恋人は原因不明の自殺を遂げていたが、裕樹は彼女が原因のように思えて仕方がない。
放課後、司は亜純と出会う。
二人は過去にある関係があった。
彼は彼女に裕樹に手を出さないよう命令するのだが…」
・「8月の長い午後」(単行本A/「月刊ホラーM」1995年8月号)
「8月2日の昼、佐山佳世は一人で市立図書館を訪れる。
この日は小学校六年の時の同級生、合田路人の命日であった。
彼が亡くなった後、彼女は父親の転勤でこの地を離れており、六年後、この町に戻ってきて、ようやく彼の命日にこの場所に来ることができる。
午後一時、合田路人の亡霊が彼女の目の前に現れ、彼女は昏睡状態となる。
煌が彼女を救うべく、合田路人について調べると…」
・「9月に知った真実」(単行本A/「月刊ホラーM」1995年9月号)
「柾は、岡本深雪と親友だった片倉市子と再会する。
彼女はミステリー研究会の後輩、湖東和音と付き合っていた。
市子は深雪の仇を取ろうと、ミステリー研究会に協力を頼んでいたが、それが縁になる。
柾は湖東和音から尋常でない気配を感じる。
だが、それは湖東も同じであった。
湖東和音の正体とは…?」
・「10月の赤い月」(単行本A/「月刊ホラーM」1995年10月号)
「職員玄関前の小ホールには生徒のコンクール入賞作品が飾られていた。
司は一年の中西有菜の描いた「満月」という絵に目を奪われる。
この絵には「血のような赤い月」が描かれ、司は自分が吸血鬼となった遠い過去を思い出す。
司が吸血鬼になった経緯とは…?
そして、憎悪の行きつく果てにあるものは…?」
・「11月の遠い約束」(単行本A/「月刊ホラーM」1995年11月号)
「井号留が三人に持ってきたお見合い写真。
その中に岡本深雪によく似ている娘の写真があり、柾は彼女とお見合いをする。
彼女は羽生宮子で、羽生財閥の末娘であった。
だが、実際はちゃらちゃらした遊び人で、お見合いの席とは大違い。
柾は断りの連絡を入れるが、彼女は逆恨みをして…」
・「決戦の12月」(単行本A/「月刊ホラーM」1995年12月号)
「来年には高校を卒業し、彼らはこの家を去ることとなる。
天野司は引退する長老の後継ぎの第一候補者であった。
柾は日本各地へ旅に出て、煌は佐山佳世に自分の正体を明かすべきかどうか悩む。
そんな彼らを監視する若い男がいた。
ある夜、彼は佐山佳世の前に現れ、彼女を誘拐する。
彼は自分のマンションに司を呼び出すが、彼の正体は…?」
・「サヨナラの1月」(単行本A/「月刊ホラーM」1996年1月号)
「司の独断で、1月いっぱいで家を明け渡し、煌は彼と一緒に帰郷しなければならなくなる。
煌は佐山佳世との件を半月で蹴りを付けねばならないが、彼女が自分から離れることを考えると、なかなか言い出せない。
ある日、柾は片倉市子から警告を受ける。
ミステリー研究部が彼らの正体を暴こうと前々からチェックしていた。
部長の秋葉法之は三年生が自由登校になる前にしっぽをつかまえようとする。
彼らは煌と佳世を襲い、煌を傷つけ、二人を拉致するのだが…」
「月刊ホラーM」に一年に渡って連載された吸血鬼ものです。
吸血鬼たちは花嫁を探しているという設定で、単行本の袖に「学園ロマンチックホラー」を銘打ってありますが、スッキリしない話が多いです。
「おまけのペエジ その@」(単行本@/p128)には「毎月毎月作者がいきあたりばったりで一年間連載したシリーズ」との記述がありますので、恐らくは、締め切りに追われ、ストーリーを練る余裕がなかったのではないでしょうか。
あと、この作品に登場する「吸血鬼」がどのようなものかちゃんとした説明がないのも引っかかります。
不老不死、血を吸う、催眠術を使う、死んだら灰になるというあたりは一般的な吸血鬼と共通してますが、日光も十字架も平気で、500年以上前から日本に隠れ住んでいると描かれております。
どんな一族なのかも気になりますが、花嫁探しに30年も人間界に出ていて正体がバレなかったことの方が遥かに謎です。
2024年5月16〜18日 ページ作成・執筆