榎本由美「地下室の旋律」(1994年7月1日初版発行)

 収録作品

・「地下室の旋律」(1994年「ホラーM」6月号)
「沢村美香(中学生)は両親が大好き。
 だが、親は非常に美しいのに比べ、父親は恐ろしく醜い容貌であった。
 ある夜、美香は、母親が父親の醜い容貌を口汚く罵るところを目にする。
 更に、父親が教授として勤める大学から、ハンサムな青年がやって来て、母親は彼に好意を抱く。
 その後、母親は妊娠。
 彼女は美香を連れて、家から出て行こうとするのだが…。
 父親が大学で研究していたものとは…?」

・「白い呼び声」(1988年「パンドラ」4月号)
「人気アイドルの高瀬梨奈は、妊娠中絶のために急遽入院する。
 名目上は盲腸炎なので、五日程度、入院することとなるが、病室では奇妙なことばかり。
 神経を逆なですることばかりを言う看護婦。
 彼女の腹に乗ったり、足を掴んで引きずる、赤ん坊の霊。
 そして、夢の中、水子でいっぱいの部屋に、あの看護婦がいるのだが…」

・「血の碑(いしぶみ)」(1988年「パンドラ」12月号)
「行方不明になった、友人のユキ。
 姫華は、ユキが訪ねた、ピアノの女教師に話を聞きに行く。
 ところが、お茶を飲んだ際、意識が遠くなり、気が付くと、女教師の館であった。
 女教師は丁寧にもてなしてくれるものの、どこか胡散臭い。
 消灯後、姫華は、下男が庭に埋めていたものを確認しに出る。
 それは、ユキの死体で、小さな悪魔のようなものが死体に群がっていた。
 篝火の所では、女教師が若い娘を刺殺しては、その血をすするのだが、彼女の目的は…?」

・「飢餓山道」(1988年「パンドラ」1月号)
「蘇枋丸(すおうまる)は、行儀見習いのため、乳母に寺に連れて行かれる。
 だが、そこは尼寺になっていた。
 長の妙抄尼は蘇枋丸を快く受け入れ、阿南尼に世話をさせる。
 住み込んですぐに蘇枋丸は尼寺の異様な雰囲気に気付く。
 ほんのわずかに食事で、尼僧達は死に物狂いの修業をする。
 阿南尼は「救いを求めている」と話すが、近くの墓場が荒らされたりとおかしなことばかり。
 尼僧達の正体は…?」

・「螢火の里」(1989年「ビーラブミステリー」2月号)
「コンパニオンの奈々子は、フィアンセの穂高武の実家の邸を訪れる。
 彼は東京に会社を持つ資産家、かつ、ハンサムな男性で、玉の輿に乗るべく、奈々子は必死にくどいたのであった。
 彼の実家は山の奥で、非常に美しい妹の操との二人暮らしをしていた。
 奈々子は実家で結婚式を挙げるものと思っていたが、武ははっきりせず、何を考えているのかわからない。
 泊まった最初の夜、彼女は、不思議なヴィジュアル系の青年と出会う。
 彼は自分のことを、家の敷地内にある、お稲荷様のキツネだと言う。
 彼は何度も彼女の前に現れては、化かされないよう警告するのだが、その意味するところは…?
 そして、この邸の秘密とは…?」

・「人形たちは夜歩く」(1990年「ナイトメア」2号)
「吉田亜梨沙は、人形作家の天野朔也と共に、古い屋敷に移り住む。
 彼のアシスタントということであったが、実際は、彼のライバルの人形作家のスパイであった。
 彼女の目的は、まるで生きているかのような人形の秘密を探ること。
 しかし、肝心の、本体を作る過程がわからない。
 ある日、彼女は、人形展で大賞を受賞したピエロの人形に、服を着せようとして、息を呑む。
 その人形は何から何まで精巧に作られていた。
 以来、彼女はその人形に徐々に魅せられ、その人形を交わるようになる。
 同時に、彼女の身体に変化が起こり始め…」

・「白日夢」(1989年「パンドラ」9月号)
「久保田広行は、デブでネクラな青年。
 母親は過干渉で、彼は将来、母親の病院を継ぐようプレッシャーをかけられていた。
 彼の唯一の楽しみは医学用ビデオを観ることで、女性を解剖する夢想に耽る。
 夏休み、いとこのあきらが、夏期ゼミのため、下宿することとなる。
 あきらは、おくてな広行と違い、遊び人で、勉強もせずに女の子といちゃいちゃしまくり。
 ある時、三日間、両親が留守をすることとなるが、あきらは女友達を彼の家に招く。
 しかも、女友達の中に、彼が想いを寄せる高崎みさとがいた。
 彼らは彼のプライベートに土足に踏み込むが、ある一線を超えた時…」

 シャープな描線が印象的な榎本由美先生の1990年前後の作品を集めた単行本です。
 「螢火の里」「人形たちは夜歩く」の出来が傑出しているように思います。

2021年3月1・10日 ページ作成・執筆

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