たまいまきこ「御霊がえし」(1998年6月1日初版第1刷発行)

・「御霊がえし」(1997年「月刊ホラーM」4月号)
「明治初期。
 アカの一家は絶望のどん底にいた。
 父親は長患いで、頼りの長男は兵隊に取られてから音沙汰がなく、母親は時化の日に無理に漁に出て、帰らぬ人となる。
 しかも、母親を埋葬した日の夜、家に借金取りが押しかけ、このままでは姉のキナエは女郎屋へ売り飛ばされてしまう。
 次女のアカは、母親が手にしていた数珠にヒスイの飾りが付いていたことを思い出し、墓場に向かい、死者からその数珠を奪おうとする。
 その時、眩い光が彼女を照らすと、天人様が現れる。
 天人様は母親の魂を西方浄土から迎えに来たのであった。
 だが、アカが墓荒らしをしたことを知ると、彼女を捕らえ、刑罰を与えようとする。
 その時は、母親の霊の無念を慮り、アカは初盆まで猶予を与えられる。
 ただし、八月十五日の夕刻にアカは供童として母親の霊と一緒に精霊船に乗り込み、その後はこの世の終わりまで浄土で働かなければならない。
 アカは支度金として金子をもらい、これで借金の幾ばくかを払う。
 その後、アカの一家は次々と運に恵まれ豊かになるが、徐々に約束の日が近づいてくる。
 八月十三日、アカは母親の霊と再会するが…」

・「水の骸絵巻」(1997年「月刊ホラーM」9月号)
「雁が音村の村おこしのために、埋蔵金を探して旅する百瀬一家。
 方向音痴の父親、おっとりとした母親の蔦絵、やさぐれた長男の浩章、しっかしもので唯一霊感のある小豆、赤ん坊のみのり(性別不明)の五人。
 一家は、平氏の隠し財宝を求めて、福岡県太宰府市上安徳郷を訪れる。
 途中で道に迷い、小豆は付近の人に安徳館という旅館の場所を聞こうとする。
 近くのベンチに、中年女性と琵琶法師が座っていたが、その琵琶法師はこの世のものでなかった。
 ようやく安徳館にたどり着くと、先程の女性がいる。
 彼女は宿屋の主人の妻で、琵琶法師の霊が憑いていた。
 琵琶法師の霊は小豆に上を見るよう合図し、彼女が見上げると、天井から腐乱した女性の霊が彼女に襲いかかる。
 霊は小豆を天井にまで引き上げ、この騒ぎで天井に開いた穴から箱が落ちてくる。
 この箱はこの地方で家宝とされた「あけずの箱」で、中には熊手が入っていた。
 この熊手は、建礼門院時子(安徳天皇の実母)を海から引き上げたものらしい。
 熊手にとり憑いている時子の霊と、子供を亡くした中年女性の思いがシンクロした時…」

・「地の闇観音」(1997年「月刊ホラーM」12月号)
「百瀬一家が訪れたのは東京港区。
 ここには狸穴埋蔵金伝説があり、郷土史家の須藤教授も協力してくれることになっていた。
 須藤教授の先祖は室町時代中期には狸穴坂一帯の豪族で、須藤家の富は斐姫(あきらひめ)の金塊探知能力によって一代で築かれたものだという。
 だが、斐姫はその能力故に暴君となり、最期は錯乱した上の焼身自殺したと伝えられており、斐姫の呪いか、須藤の家系には生まれつき目の不自由な者が生まれる。
 須藤教授の娘、愛美も盲目で、そのために、教授は埋蔵金の研究を諦めていた。
 須藤教授の家に泊った夜、小豆は不思議な夢を見る。
 夢では、井草丸という青年が斐姫を慕い、宝の発掘を願い出る。
 彼は誓いのあかしとして両目を差し出すが、井草丸は小豆の兄、浩章にそっくりであった。
 翌日、浩章は愛美を学校へと送る。
 その途中、ヤンキーに絡まれるが、目のない獣人間の群れが彼らを襲う。
 獣人間達は、喰い殺したヤンキーの眼球を掴むと、須藤家に行き、そこに代々伝わる百済観音に眼球をはめる。
 すると、百済観音が動き出し、狸穴稲荷まで移動すると、木造の観音像の中から黄金の観音像が現れる。
 観音像と獣人間は狸穴稲荷の下の坑道へと入って行くのだが…。
 観音像の正体とは…?
 そして、愛美と浩章の前世は…?」

・「帰り蜘蛛城」(1998年「月刊ホラーM」2月号) 「百瀬一家が訪れたのは岐阜県白川郷。
 戦国時代、ここを治めた内ヶ嶋氏は秘密の大金山を持っていたが、天正十三年(1585年)11月29日午後十一時に起こった天正大地震によって山が崩れ、帰雲城は埋没し、城主、家臣、住民の千人以上が圧死していた。
 そして、百瀬一家の目的は今も場所がわからない金山を発見することであった。
 霧で迷った一家は楠木翁という老人の邸を訪ねる。
 そこでは、大道芸人の一座を呼んで、村祭りの最中であった。
 夜、小豆は大道芸人達が怪しいと感じ、テントに忍び込む。
 だが、大道芸人の三人はT大地震研究所の研究員で、天正大地震の現地調査をするために一座に忍び込んだのであった。
 しかし、楠木翁がそのうちの一人を殺害し、小豆たちに日本刀で斬りかかって来る。
 楠木翁は内ヶ嶋氏の子孫で、帰雲城の黄金の秘密をしっているようであった。
 小豆たちは「おクモ様」という巨大蜘蛛に襲われるが…」

・「黄昏のレールウェイ」(1994年「プリンセスGOLD」11月号)
「仲原実可里は地下鉄に乗ろうとして、青年にぶつかってしまう。
 かろうじて電車には間に合ったものの、方向が違う電車であった。
 ようやく彼女が帰宅すると、家は豪華なお邸で、平凡なはずの両親は父親は大物プロデューサー、母親は大物女優、しかも、実可里はアイドル歌手。
 更には、五年前に死んだはずの祖母が生きていて、皇室とつながりがあった。
 混乱する彼女の前に、笙也という青年が現れる。
 彼はアイドル・グループ「G−ジョーンズ」のメンバーなのに、何故か、父親の下で雑用をしていた。
 笙也は実可里にここが「パラレル・ワールド」だと教える。
 どうやら地下鉄で彼にぶつかった際に、二人だけこの世界にまぎれこんだらしい。
 この世界では、日本の内部に幾つも国があり、実可里は、関東国宮様の身代わりとして、東海国にお嫁に行くよう命令される。
 だが、それは影武者としてであって、彼女の行く手には死が待ち構えていた…」

 読みごたえのある単行本です。
 百瀬一家が主人公の三作はファンタジックな伝奇ホラーで、恐ろしく荒唐無稽なストーリーですが、そこがかえって新鮮で、ゲテモノながらも読ませます。(「帰り蜘蛛城」は一線を越えていると思います。)
 もっとこのシリーズを読みたいのですが、他に作品はあるのでしょうか?
 個人的なベストは表題作の「御霊がえし」。
 これはいい話です。涙がちょちょ切れます。
 にしても、天人様、墓荒らしの罪、重すぎないか?

2023年1月15日/2024年8月22日 ページ作成・執筆

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