曽祢まさこ「新・呪いの招待状D 花鬼館」(2011年1月1日初版第一刷発行)

 カイは呪殺専門の呪術師。
 彼は依頼者の寿命十年と引き換えに、憎い相手を呪殺してくれる。
 さて、今回の依頼は…?

・「欠陥家族」(2010年「ホラーM」2月号)
「菜乃の家族は両親と三歳年上の姉、摩乃の四人。
 父親は定職に就かず、賭けマージャンやパチンコで稼ぎ、母親は週三日スナックで働く。
 この両親には根っからの悪党で、一家総出で万引きをして、自分の娘には児童ポルノの撮影をさせる。
 姉の摩乃は何でもうまくこなすが、妹の菜乃は不器用かつ臆病で、両親からは「ダメな子」の烙印を押されていた。
 摩乃は中学生の時、酔っ払ったフリーターの運転する車に撥ねられて亡くなる。
 両親は最初は悲嘆に暮れたものの、早速、加害者一家から金を搾り取り始め、生活が派手になっていく。
 一方、中学生になった菜乃は両親の生き方に対して疑問を抱くようになっていた。
 両親が無関心なのを幸い、彼女はまじめに生きることを決意し、ちゃんと勉強して、家事もきちんとする。
 また、高校に入ってからは、卒業後は家を出るべく、バイトをして貯金を貯める。
 しかし、ある夜、彼女は轢き逃げにあいそうになり、ある疑惑を抱くようになる…」

・「花鬼館」(2010年「ホラーM」4月号)
「女占い師のサラが、カイと一緒に住む西洋人形のマリーにお願いがあると言う。
 そのお願いとは、サラのお得意先のお嬢さん、〇小路真奈美(6歳)と一日でいいから遊んでほしいというものであった。
 真奈美は心臓が弱く、病院の入退院を繰り返していた。
 彼女はクリスマスの時、サンタに「いきておはなしするおにんぎょう」をお願いするが、どれも気に入らず、それにサラは目を付ける。
 サラがマリーを真奈美の部屋に持って行くと、真奈美は大喜び。
 次の日の夕方まで、マリーは真奈美と一緒に過ごすことになる。
 真奈美からいろいろと話を聞くうちに、母親と祖母の仲が険悪なことを知る。
 母親は真奈美のことは最低限にしか関わらず、外で飲み歩くことが多いらしい。
 また、〇小路家は平安時代から続く名門であったが、母親の実家の援助がなければ、家屋敷を手放さなければならないほど落ちぶれていた。
 翌日、マリーと真奈美は、他の人形達と一緒にささやかな花見の宴をする。
 別れ際、真奈美は次の手術で元気になるとマリーに言うが、マリーが次に彼女に会ったのは…」

・「悪夢の終わる時」(2010年「ホラーM」6月号)
「夢使いのバー「舞夢」に一人の中年男性が駆け込んでくる。
 彼は陽一郎という名で、輸入雑貨の会社で仕入れを担当していた。
 彼の依頼は悪夢を消すことで、悪夢を見ているのは彼でなく、娘の日向(15歳)であった。
 二か月前、トルコに行った彼はそこで親しくなった友人から「悪夢の素」を売っている店について聞く。
 裏通りの奥の薄暗い店に行くと、怪しげな女が「フツーの悪夢」なら一年の寿命、「強い悪夢」なら七年の寿命で売るという。
 違いは「フツーの悪夢」なら一週間、「強い悪夢」なら一年もつが、「強い悪夢」を見る者は一年経つ前に自殺するか衰弱死してしまう。
 彼は「強い悪夢」を買い、帰国後、妻に飲ませようと考える。
 妻は一流の学校の出、かつ、今勤めている会社は妻の両親のもので、ことあるごとに彼を見下し、馬鹿にしていた。
 しかし、「強い悪夢」を入れたコーヒーを一人娘の日向があやまって飲んでしまう。
 日向は見る見るうちに衰弱していき、陽一郎はあちこち探しまくって、ようやく「舞夢」を発見したのであった。
 陽一郎は夢使いに七年の寿命を払い、日向は悪夢から解放される。
 一安心して、陽一郎は外国に出かけるのだが…」

・「殺意の館」(2010年「ホラーM」8月号)
「夢使いが「舞夢」に来たカイにある家族の話をする。
 その家族は初老の夫婦に30歳前後の姉弟の四人。
 父親は、元地主だったプライドをいまだ持ち続けている市役所勤めのワンマン男。定年退職後は庭いじりばっかり。
 母親は、夫が元気だった間は彼にべったりであったが、定年後の覇気のない夫に愛想を尽かし、家事もろくにせずに、テレビ漬け。
 姉は、ワンマンな父親を嫌い、高校時代から家出を繰り返し、20歳で結婚するも、五年後に離婚した出戻り。その後はボーイフレンドや友人と遊び歩く毎日。
 弟は、父親の期待を身に受け、一流大学を卒業、一流企業に勤めるが、二か月も続かずリタイアし、引きこもり。更に、父親に罵られた際に、父親に暴力をふるい、以来、父親とは絶縁状態。
 家族は皆それぞれ、自分の不幸は他の家族のせいだと呪い、家には殺意が渦巻いていた。
 カイの影であるネコは彼ら一人一人にカイへの案内状のカードを配って回るのだが…」

・「悪夢狩り」(2010年「デジタルホラーM」Vol.002,003)
「みちかという女子中学生が「舞夢」を訪れる。
 彼女の依頼は、半年前から見るようになった一つ目の巨人に追われる悪夢を消してほしいというものであった。
 彼女の両親は彼女が五歳の時、事故死し、母親の年下のいとこのトールが彼女を引き取る。
 その後、彼は、みちかのために雇った家政婦の栄と結婚し、三人家族となり、みちかはこの義理の両親を愛していた。
 だが、トールの祖母がマンションに来た時、祖母が、みちかは父親が母親を殺すところを見たと話すのを聞いてしまう。
 みちかは断片的に当時の記憶を取り戻し、トールは彼女の両親に起こったことを話す。
 当時、ずっと順風満帆だった父親は職を失い、挫折感に打ちひしがれる。更に、仕事を辞めたことで、妻と言い争いになり、彼女を扼殺、自分は埠頭に車でとび込み自殺したのであった。
 とりあえず、その説明で納得したものの、以来、彼女は一つ目巨人の悪夢に悩まされるようになる。
 夢使いは悪夢の一つ目巨人を消そうとするも、そのパワーは意外と強力であった。
 彼はカイの影のネコに協力を頼み、一つ目巨人を倒すのだが…。
 みちかの両親の死の真相とは…?…」

 「欠陥家族」と「殺意の館」が読みごたえがあるように思います。
 特に「殺意の館」は曽祢先生も作品解説で書いているように「その辺に存在していそうで怖い」かも。
 ラストも実に説得力があります。

2022年7月29日 ページ作成・執筆

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