曽祢まさこ「お姫様クラブ」(2008年6月1日初版第一刷発行)

 収録作品

・「お姫様クラブ」('08「月刊ホラーM」4月号)
「南美は小さい頃、お姫様になったことがある。
 美しく飾られた大広間、華やかな光と香しい花の香りに満たされた中、可愛いらしいドレスを着飾り、フローラ姫と呼ばれ、南美は魔法の時間を過ごす。
 それは、南美の両親が所属していたプリンセス・クラブで催された宴であり、両親の大口の寄付により、南美は主役となったのであった。
 しかし、その後、父親の事業が失敗、借金まみれとなり、両親は離婚、母親につくものの、夜の勤めをする母親の生活は荒れていく。
 南美は看護婦の勉強をして、家を出るが、病院で出会った患者と付き合ううちに、妊娠、結婚の運びとなる。
 育児と生活に追われる、平凡な主婦の生活を送る中、ある日、プリンセスクラブの説明員が南美のもとを訪れる…」
 さえない主婦の心の奥に潜む「永遠の少女」を描いた作品です。
 わずかな幸せとの引き換えに、家事雑事に延々と追われる生活の描写の方が、身の毛がよだつかも…。

・「未来喰い」('06「月刊ホラーM」1月号)
「松井勇太は平々凡々たる小学生。
 大した才能も根性もなく、未来には「それなり」の人生しかないと、がっかりしながらも割り切っていた。
 そんな勇太の前に、妖怪「未来喰い」が現れ、勇太の未来を喰わせるよう言う。
 未来喰いが言うには、勇太の未来は平凡なものでなく、波乱万丈のドラマチックなものらしい。
 そこで、勇太と未来喰いは賭けをすることになる。
 その賭けとは、勇太がその時から24時間、口をきかないというものであった。
 勇太が賭けに勝てば、彼の未来にツキがまわるようにしてくれるが、負ければ、平凡な普通の人生。
 勇太は賭けに臨むのだが…」
 作中でも触れられておりますが、芥川龍之介「杜子春」のバリエーションであります。
 また、口を24時間きかないというのは、ムロタニツネ象先生の「地獄くん」の一エピソードにもありましたね。(民話か何かが元なのでしょうか?)
 個人的には、「未来喰い」という妖怪がなかなかおもしろいと思います。
 靴の先がブッチャーの靴みたいに上向きに尖がっているのが、ちょっとカッコいいですね。

・「軍神の夏」('07「月刊ホラーM」10月号)
「高校一年の夏。
 千里は園田涼一と楽しい夏休みを過ごすつもりだった。
 しかし、極端に愛国的(?)な祖母のせいで、涼一との関係にひびが入ってしまい…」
 ワケあって、簡単に済ましております。
「戦争」という一筋縄でいかない問題を扱っておりますので、曽祢まさこ先生の苦労が伝わってきます。(出来がちょっぴり玉砕気味…。)
 今や七十年前の話になってしまった戦争の影をいまだ日本国は引きずっておりますが、ようやく冷静に分析できるようになりつつあるように思います。
 とは言え、何事も客観視できるようになるのは、数世紀という時間の流れが必要でありましょう。
 歴史というものは、自分の側に「正義」があると「解釈/主張」する「正当化」の塊であります。
(「自虐史観」というものも、裏を返せば、一種の「正当化」だと思います。悪いのは全て自分で、向こうに全ての「正義」があるとするのですから。)
 時と共に、当事者も皆、過ぎ去り、その「正義」のメッキが剥げた時に、ことの真相が明らかになるでしょう。

・「地獄谷の怪」('05「月刊ホラーM」9月号)
「ある夏、誠は、鉄道を幾つも乗り継ぎ、鬼怒田(きぬた)という田舎町に降り立つ。
 彼は幼い頃より、バイオリンに夢中で、バイオリンの名人になるために音楽学校で練習していたが、休暇のために、父方の親戚、本庄家を訪れる。
 彼の訪問の目的は、谷川の中流に奇岩の集まった一画、地獄谷であった。
 父の話によると、毎年、夏の満月の晩に、そこに鬼が集まって夏祭りを開くとのこと。
 そして、その鬼囃子を聞いたものは幸運を得ると言われているのだと言う。
 技量は一流だが、ある限界を打ち破れず、スランプに悩んでいた誠は、その鬼囃子を聴きたいと願い、ここまで来たのであった。
 誠は地獄谷の鬼囃子を聴くことができるのだろうか…?」
 個人的には、この単行本の中で、最も好きです。
 そつがない、佳作だと思います。
 ただ一つ…ネタバレですが、地獄谷にどうしてあんなエキゾチックな神様(?)がいるのかに、引っかかってしまいます…。

2016年1月19・22日 ページ作成・執筆

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