「ホラーアンソロジーCOMIC 死角」(2016年9月20日初版第1刷発行)

 収録作品

・伊藤潤二「白雪姫」(「まんがグリム童話」2014年12月号)
「ある国。
 妃を亡くした城主は、新しい妃を城に迎え入れる。
 妃には幼い娘がいたが、城主は子供嫌いだったため、城内の片隅の小屋で乳母によって育てられる。
 妃の部屋には立派な鏡があり、その鏡は夜ごと、妃の美しさを世界一と讃える。
 しかし、数年後、鏡は、妃の美しさは二番目で、一番美しいのは妃の娘だと話す。
 妃がひそかに見に行くと、娘は「白雪姫」と名付けられ、とても美しく成長していた。
 しかも、城主が娘に目を付けていることを知り、妃は白雪姫を地下に幽閉し、遂には部下に命じて殺害させる。
 だが、鏡は白雪姫の美しさを讃えることをやめず…」

・高橋葉介「プロローグで終わる物語」(描き下ろし)
「馬飼敏(うまかい・びん)は普通の男子高校生。
 ある日、彼は羊田メイという女子高生に町中で呼び止められる。
 彼女は「きみにパワーを与える」と言うが、彼は全く相手にしない。
 しかし、以降、彼はこの世にあらざるものの姿が視えるようになり、それを退治することができるようになる。
 彼は、彼女と会った場所に戻り、彼女に「パワー」を返そうとするが…」

・犬木加奈子「心霊内科」(描き下ろし)
「ドクターのもとを訪れる患者は皆、自分の世界に囚われたものばかり。
 彼は、可能な限り、患者を励まし、宥め、諭すが、最後に残るは無力感のみ。
 さて、次の患者は…」

・雨がっぱ少女群「文学青年」(描き下ろし)
「田舎の図書館。
 利用者は少なく、平日なんかガラガラ。
 そういう時に決まって「文学青年」が現れる。
 彼は50年以上も前からここにいる幽霊(?)で、本棚の向こうで本をめくっている。
 恰好は高校生ぐらいなのだが、決してその顔を見ることはできない。
 直美という図書館司書は彼の繊細な指に興味を惹かれ、その顔を見ようと試みるが…」

・日野日出志「サーカス奇譚」(「ヤングジャンプ増刊号 ザ・グレート青春号」Vol.9(1987年7月7日発売))
「暗黒の魔界に棲む者たちによって結成された『黒魔団大サーカス』。
 様々な魔物がその特性をいかした出し物に出ていたが、特に人気があったのが「鬼死母」と「鬼母児」の腹話術漫才であった。
 「鬼死母」はシスター姿の美しい女性であるにもかかわらず、「鬼母児」は醜悪極まりない子供の人形で、その絶妙な掛け合いに会場は大いに沸く。
 しかし、「鬼母児」は人形ではなく、「鬼死母」の左の掌で産まれた、彼女の子供であった。
 「鬼死母」は「鬼母児」を溺愛していたが、「鬼母児」は母親から離れ、外の世界を見ることを夢見る。
 彼の願いは日ごとに強くなり…」

・呪みちる「嫌な絵本」(「怖い童話」2011年7月号)
「よし子は、小説家志望の直人と同棲六年目。
 ある日、彼女は友人のミエコから奇妙な絵本をもらう。
 その絵本は「へびになったお母さん」(のじまだよしお・作/北枕安・絵)というもので、内容は見世物小屋を扱い、悪趣味極まりなかった。
 よし子が直人に絵本を見せると、彼も大いに興味を示す。
 彼はこの絵本について調べるうちに、「トラウマ絵本」について執筆する決意をする。
 だが、一方で、この絵本を手に入れてから、よし子は、ウジ虫の海に飲まれたり、飢えて自分の指を食べるという悪夢を毎晩見るようになる。
 また、直人も…」

・「暗闇の女たち」(1990年「ナイトメア」)
「1号室 料理好きの女」
 まめで料理は得意だが、地味で面白味のない女性。
 夫は外に女を作っているようだが、それでも、彼女は夫のために、手の込んだ家庭料理を作り続ける。
 そんな彼女は、友人に頼んで、田舎から定期的に届けてもらう「もの」があった…。
「2号室 ゴミ置き場の女たち」
 団地のゴミ置き場は主婦達にとって恰好の井戸端会議所。
 ある日、ゴミの収集日でもないのに、ゴミが捨ててある。
 来週、ゴミ当番の主婦がそれを預かり、持ち主を特定するために、ゴミ袋の中身を検める(あらた・める)。
 ゴミからは、自分の家庭よりもいい暮しが想像され、主婦は嫉妬に狂うのだが…。
「3号室 117の女」
 三井ミサ子は、ある男性と愛人関係にあった。
 独り淋しい夜には、電話の時報を聞いて、寂しさを紛らわす。
 最近、隣部屋に女性が越してくるが、以来、奇怪なことがミサ子に起きる。
 ミサ子は管理人に相談するのだが…。

・長田ノオト「籠の鳥」(速瀬れい・修辞)(初出不明)
「少年は帰宅途中、林の中で女子生徒達が「魔女裁判」をするのを目撃する。
 目隠しと猿ぐつわをされ、上半身を縄でぐるぐる巻きにされていたのは、転校生の池村マリ子であった。
 どうやら彼女は理科準備室に出入りしているらしく、理科教師の望月影二との関係を疑われていた。
 マリ子は木に吊り下げられ、放置されるが、少年は彼女を助ける。
 だが、彼女は近寄る彼を平手打ちして、その場から立ち去る。
 彼は理科準備室が怪しいと思い、その夜、理科準備室に行く。
 すると、望月の膝の上でマリ子が抱かれていた。
 望月は彼女を「鳥人間」と呼ぶのだが…」

・高橋葉介「゛むじな″はじめました」(「幽」Vol.22(2015年1月30日発売))
「男がベッドで眠っていると、隣の妻に起こされる。
 妻は、夢の中で彼が他の女と浮気していたと彼を責め立て、あまりのうるささに、彼は外出する。
 すると、夜の通りで一人の女の誘いを受ける。
 彼はその女と寝るのだが…」

 当代で一流の怪奇漫画家さんの作品を集めた豪華なアンソロジーです。
 目玉は、伊藤潤二先生の「シンデレラ」と描き下ろし作品で、犬木加奈子先生の人間観察が光る「心霊内科」と、雨がっぱ少女群先生のグロと奇想の融合した「文学青年」は個人的ベストです。
 ただ一つ、残念なのは、日野日出志先生の作品。
 「サーカス奇譚」は名作で、いろんなアンソロジーに採り上げられてはおりますが、このアンソロジーではどうも浮いているような気がしております。(まあ、日野先生のお気に入り作品なのかもしれませんが…。)
 ともあれ、これ一冊だけで終わらすことなく、続巻を出し続けてほしいものです。

2023年2月11・12日/3月17・18日 ページ作成・執筆

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