はづき蓮子「すいこ」(1994年12月1日第1刷発行)

 収録作品

・「すいこ」(1993年「ホラーM」Vol.2)
「森の中にある、深く澱んだ太郎ヶ淵。  ここには「太郎」という名の「すいこ」が長い間住んでいた。
 ある日、太郎ヶ淵の畔で杉本裕太という少年が村の子供達にいじめられる。
 太郎は子供達を脅かし、裕太を救うが、裕太には太郎の姿が視えた。
 裕太は太郎にすっかりなつき、毎日、キュウリを土産にやって来る。
 そのうちに、太郎は、裕太の家庭事情について知る。
 裕太の父親の死後、母親は祖母に裕太を預け、働きに行ったらしいが、半年経っても、連絡がないという。
 自分を「いらない子供」と言う裕太に、太郎は自分の過去を思い起こし、彼に「すいこ」になるかと尋ねる。
 その時、裕太の母親が彼を迎えに来るのだが…」

・「嗤う影」(1993年「ホラーM」Vol.1)
「仁王院礼子は幼い頃より霊視能力があった。
 それにより散々つらい思いをしてきたために、霊は全て無視することにしていた。
 彼女は同じクラスの浜口涼太という男子に想いを寄せていたが、それは昔、彼が彼女をかばってくれたからであった。
 ある日、彼の蹴ったボールが彼女の頭を直撃し、彼は保健室に彼女の見舞いに来る。
 その時、彼女は彼の背後に「死神」を視てしまう…」

・「天使」(1993年「ホラーM」Vol.3)
「気が付くと、少女は教室にいた。
 隣には、「エンジェル様」に熱中する少女達。
 少女は笹本先輩にマフラーを渡す約束を思い出し、廊下を走る。
 その日は結局、渡せないままで、翌日、靴箱に手紙を入れる。
 だが、風紀委員の斉木という女子生徒がその手紙を見つけ、ビリビリに破く。
 それを見た少女は斉木を階段から突き落とし、笹本先輩に直接会おうとするのだが…」

・「花夜叉」(1994年「ホラーM」Vol.4)
「菜緒は身体の弱い小学生。
 春になると、いつも熱を出して寝込むが、今年はいつもと違う。
 熱を出すたびに、小さな邪鬼のようなものが視えるのであった。
 彼女は母親を心配させたくなくて、それについては話さない。
 また、父親は仕事が忙しいのか、あまり帰って来ず、最後にいつ帰ってきたのか思い出せない。
 ある夜、菜緒は居間に鬼の姿を見る。
 夢かと思うが、どうやら本当に家の中にいるらしい。
 彼女が母親に訴えると、母親は自分も子供の頃、よく見ており、「大人になれば見えなくなる」と話す。
 「本当の鬼」というのは…?」

・「魚は渇れて砂へと眠り」(1994年「ホラーM」6月号)
「高校一年生の本条早紀子は島津洋平に突然、告白をされる。
 島津洋平は「転生男」として有名で、彼によると、前世の彼は魚で、人間の早紀子を惚れ、神様にお願いして人間に転生した後、ずっと彼女を捜し続けてきたと言う。
 早紀子はあきれながらも、洋平は執拗に彼女に付きまとう。
 だが、彼女と付き合うにつれ、洋平は衰弱していく。
 彼は水の中からの「戻ッテオイデ」という声に抗い続けるが…。
 そして、「水の魂」を持つもの達は、洋平を「水の輪廻」に引き戻すため、早紀子を消そうとする…」

・「ことろ」(1992年「月刊ホラーハウス」5月号)
「ひなこ、ゆか、しいちゃんは孤独な小学生。
 三人は誰もいない家に帰るのがイヤで、日が暮れるまで公園で過ごす。
 ある日、しいちゃんが行方不明となる。
 この近辺では誘拐事件が発生しており、誘拐犯の仕業と思われたが、ゆかは違うと断言する。
 彼女は「ことろ」がしいちゃんをさらう現場を目撃していた。
 「ことろ」は人が大勢いる公園に現れ、しいちゃんを包み込むと、夕陽に紛れて消える。
 ゆかは「ことり」が自分を見ていたと話し、翌日、彼女は学校に来なかった。
 帰宅後、ひなこの家の電話が鳴り、出ると、ゆかから助けを求められる。
 どうやら彼女の家に「ことり」が来ているらしい。
 ひなこは急いでゆかのマンションに向かうのだが…」

・「水のマージナル」(1994年「ホラーM」9月号)
「(「すいこ」の続編)
 裕太は高校二年生。
 施設に預けられた後、母親とは会わなかったが、祖母の田舎には毎夏、帰省していた。
 その度に、彼は太郎ヶ淵の「すいこ」、太郎に会いに行く。
 彼は太郎とたわいのない話をして過ごすが、たまに太郎の姿が見えなくなる。
 ある日、彼の祖母が発作を起こし、寝付く。
 裕太は太郎ヶ淵に行き、そこにキュウリを置くと、太郎に別れを告げる。
 太郎は遂に姿を見せなかった。
 ようやく生活が落ち着いた頃、彼のもとに警察署から手紙が届くのだが…。
 喪失感に苛まれながら、裕太は「子供の頃の淡い夢」を求めて、太郎ヶ淵に行く…」

 良作揃いの単行本です。
 絵柄が少女漫画風で、派手さもなく、食指が動かない人も多いと思いますが、繊細な心理描写とストーリーはなかなかのもの。
 個人的には、「天使」「花夜叉」「ことろ」といったダークな短編に心惹かれます。
 また、ファンタジー色の強い「魚は渇れて砂へと眠り」も不思議な味わいの良作です。

2023年3月4日/4月17日/5月2日 ページ作成・執筆

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