曽祢まさこ「わたしが消える時」(2009年4月20日初版第1刷発行)

 収録作品

・「わたしが消える時」(「月刊ホラーM」2002年9月号)
「小宮かすみは幼い頃、母親が男を連れて家を出たために父親が酒乱になり、暴力を受ける。
 数年後、父親は再婚し、落ち着くが、暴力によって内気になった彼女は、小学校ではいじめにあう。
 ある日、彼女はいじめっ子達に追われるが、「神様お願い あたしを消して!」と強く願うと、彼女の姿は他人に見えなくなっていた。
 彼女は自分が「消える魔法」を使えることに気付くが、これは彼女がピンチの時に発動するらしい。
 中学になり、彼女はクラスの園村という男子に片想いをする。
 ある時、彼の机にこっそり座り、彼を想うが、その場面を誰かに見られており、翌朝、クラス中の噂になる。
 あまりの恥ずかしさに彼女が消えたいと願うと、彼女の姿は誰にも見えなくなっていた。
 このまま永遠に消えていようと最初は思ったものの、家族にすら気づいてもらえず、焦り始める。
 見えないだけでなく、触れても、話しかけても、彼女の存在を感じ取れないらしかった。
 都会の雑踏の中で一人ぼっちの彼女に、ただ一人、浮浪者の男性が気づく。
 と言っても、幽霊のようにぼんやり見え、声もどうにか聞き取れるレベルであった。
 行く所がなく、彼女は浮浪者の男性と一緒に暮らし始めるのだが…」

・「ライアー ―針千本の向こう側―」(「ミステリーボニータ」1999年3月号)
「桂子はおばあちゃんっ子で、嘘をつくのが嫌いなまっすぐな性格の女の子であった。
 長じて高校生になった彼女は自分が平気で嘘をつくような人間になったことを激しく嫌悪する。
 しかも、彼女は親友である亜矢の彼氏と秘密裏に付き合っていた。
 彼氏の名は寺内トシアキで、亜矢の幼なじみ&親戚だが、遠縁のため、亜矢との血のつながりはない。
 トシアキは自信過剰な性格で、最初、彼を紹介された時、桂子は好印象を持たなかった。
 しかし、半ば強引にデートに誘われるうちに、徐々に惹かれていく。
 一方、亜矢は徐々に元気がなくなっていき、桂子は疑心暗鬼に苛まされる。
 この三角関係の行く末は…?」

・「捨てネコ同盟」(「ミステリーボニータ」2002年1月号)
「『のえる』は捨て猫を目にすると、放っておけない女子高生。
 今度も公園で捨て猫を拾ってしまい、飼い主を探して、一戸一戸訪問していたところ、ハルキという少年と再会する。
 彼は公園でその捨て猫をいじめていたが、彼もまた両親にネグレクトされていた。
 二人は一緒に捨て猫をもらってくれる人を探すこととなる。
 日も暮れ、この日はあきらめようとするが、のえるは最後に一軒、ある婦人の家をもう一度訪ねようと考える。
 その婦人を昼過ぎに訪ねた時、猫は好きだが、自信がないからと言って断ったのであった。
 その家は電気が消えているが、玄関のドアには鍵がかかっていない。
 中を覗くと、婦人が倒れていた。
 彼女は首を絞められて殺されており、死後五時間経過していた。
 どうやら、のえる達が家を出た後、殺されたらしく、運が悪かったら、犯人と鉢合わせしていたかもしれない。
 翌日、のえるは猫の里親探しのために、友人の兄の友達である石井先輩の高校がある町に行く。
 ところが横断歩道で何者かに突き飛ばされ、彼女は無事だったものの、猫は轢かれてしまう。
 その場に石井先輩とその友人がおり、彼女を慰め、後の始末をしてくれる。
 だが、翌日、更にショッキングな事実が明らかになり…」

・「愛さずにいられない…」(「ミステリーボニータ」1999年11月号)
「杏子は複雑な家庭の少女であった。
 両親は別居しており、父親は他の女と同居で、母親はいつもピリピリ。
 また、友人と言えるものもいなかったが、ある雨の日曜日、彼女は誠という青年と再会する。
 彼とは小学二年生から四年生までの三年間、同じマンションだった時に非常に親しくしており、それは彼女にとってかけがえのない思い出であった。
 彼女は彼を「運命の人」と信じるが、彼には「つきあっている人」がいた。
 彼女は彼の後をつけ、その相手の家を突き止める。
 誠が来ないか、毎日、彼女はその家の近くに行っていると、ある日、偶然にその家のペットの猫を保護する。
 これをきっかけに、そこの娘と会うが、その娘は誠にとって「まちがった相手」で、彼女がいる限り、自分の思いは届かないと考える。
 そこで、杏子は無言電話、出前のいたずら、ペットの誘拐と思いつく限りの嫌がらせをその家にするのだが…」

・「にがい風」(「ミステリーボニータ」1997年11月号)
「授業中、出来心でカンニングしそうになった長岡弓子。
 数日後、そのことを脅迫する手紙が弓子のもとに届く。
 手紙には、図書館の二階にある文学全集の指定されたページに、千円札を挟んでおくよう指示してあった。
 カンニングをしようとしたけど、実際にはやっていないと書いた手紙を挟んでおくと、週明けの月曜日、黒板にある言葉が記されていた。
 それは「情欲をいだいて女を見る者は心の中ですでに姦淫したるなり」という聖書の言葉で、彼女の返信への回答であった。
 弓子は、斜め後の席に座っている、片想い中の守屋浩之が怪しいと思う。
 浩之は、図書館の二階をしばしば訪れており、また、しばしば彼の視線を感じる。
 彼女は思い切って彼に手紙のことを聞くと、実は、彼も過去に脅迫状をもらっていた。
 二人は協力して脅迫犯人を捜すのだが…」

・「しのび寄る殺意」(「殺人事件 Part2」(1988年)掲載)
「のり子は編み物の好きな平凡な少女。  彼女の恋人は容姿端麗かつ頭脳明晰な水沼貴征(みぬま・たかゆき)であった。
 彼はマザコンで有名だったが、彼の母親はとても素敵な夫人で、のり子は一目で魅せられる。
 また、母親の方も彼女を気に入り、良好な関係を築いていた。
 しかし、デパートで眼鏡をかけた女性がスプーンを万引きする現場を目撃した時から、のり子の周りで奇妙なことが起き始める…」

 曽祢まさこ先生お得意のサスペンス・ミステリー作品を集めた短編集です。
 どの作品も出来は良いですが、表題作の「わたしが消える時」には、他人に見えない理由を説明していて、妙に感心しました。
 あと、ストーカーものの「愛さずにいられない…」は予想以上に厭らしい内容なので、読む際には注意が必要です。

2023年7月19・20日 ページ作成・執筆

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