蕪木彩子「虫に願いを」(1996年12月1日第1刷発行)
あらゆる虫に精通した「虫屋」。
彼が提供する虫はどんな願いでも叶えてくれる。
だが、それには高い代償が…。
・「虫に願いを」(「月刊ホラーM」1996年4月号)
「のぞみは藤森先輩に想いを寄せていた。
だが、彼は多くの女子生徒にモテモテで、粧子という決まった恋人もいる。
ある夜、彼女の部屋に「願イ虫」が現れる。
願イ虫は三つ願いを叶えると言い、のぞみは、一日だけ藤森先輩と一緒にいたいと願う。
翌日、藤森先輩がバレンタイン・チョコのお礼にと一日デートをしてくれて、別れ際にはキスをする。
しかし、翌日、藤森先輩の態度は打って変わって冷たく、更に、粧子にしばかれ、土下座させられる。
願イ虫に唆され、のぞみは二番目の願いで藤森先輩と粧子の仲を裂く。
粧子は藤森先輩に拒絶されるが、どこか自信がありげであった。
彼女も何やら「お願いごと」をしているようなのだが…」
・「虫少年の恋」(「月刊ホラーM」1996年1月号)
「虫屋に仕える虫太郎。
外見は普通の少年に見えるが、本物の人間ではなく、平安の世から何百年も生き続けた虫が人間になった「虫少年」であった。
彼は友達が欲しいと願うも、胸から下には蛆がわいているため、誰も仲間に入れてくれない。
ある日、いじめられている彼を、なおという少女が助けてくれる。
彼は彼女を慕うが、やはり、気持ち悪がられてしまう。
そんな時、なおが原因不明の皮膚病にかかり、悪化の一途をたどる。
友人達がどんどん離れていく中、虫太郎だけは彼女の見舞いを続け、なおは彼の優しさに気づく。
虫太郎はクリスマスに彼女へプレゼントすると約束するが…」
・「虫屋の密かな愉しみ」(「月刊ホラーM」1996年2月号)
「高校受験生の愛恵、徹、悦子、史郎。
彼らはそれぞれ希望の進路をあきらめざるを得ず、鬱々としていた。
ある夜、予備校の帰り、公園に住む浮浪者を見に行く。
その浮浪者の老人の腹は奇妙に膨らんでいた。
ふとしたことから、彼らは老人に暴行を加え、勢いで、史郎は老人の腹をカッターで切り裂いてしまう。
すると、腹からは内臓と共に、大量の虫が湧き出てくる。
彼らは逃げ出すが、身体中に虫がまとわりついており、愛恵以外の三人は(何故か)虫を食べる。
この虫は「にが虫」の幼虫で、虫屋の大好物であった。
これを子供が食べると、危険な作用があるのだが…」
・「母恋し虫殺し」(「月刊ホラーM」1996年3月号)
「小学生の真弓は複雑な家庭環境であった。
母子家庭で、母親は水商売で帰りが遅く、真弓はちっともかまってもらえない。
その怒りを彼女は虫にぶつけ、虫を見たら、必ず惨殺していた。
ある日、クラスメートから虫のたくさんいる家を教えてもらう。
それは虫屋の屋敷で、真弓が庭の土虫をいじめようとすると、虫屋に止められる。
真弓は虫屋に「虫の血ににおい」が身体にしみついていると指摘され、一目散に逃げる。
帰宅すると、母親が家に男を連れ込んでいた。
自分が邪魔なのではと疑いながらも、真弓は母の愛を求めずにはいられない。
しかし、母親は男と一緒になるため、真弓を殺そうとして…」
・「虫人形」(「月刊ホラーM」1996年5月号)
「令子(中学生)と真奈(小学生)の姉妹。
令子は死んだ前妻の子で、真奈とは血のつながりはなかった。
ぱっと見は仲良し姉妹だが、令子は、母親の愛を独占する真奈を憎悪し、いじめる。
ところが、何をしても、母親の愛は令子には向かない。
ある日、母親がPTAの会合に出ている間、令子は真奈を包丁片手に追いかけて、真奈は階段から転落、死亡する。
母親は真奈をあきらめきれず、虫屋を訪ねる。
その目的は「虫人形」を作る事であった。
亡くなった子供に似せた人形を作り、中にその子の髪、歯、骨、そして、雌雄一対の虫を入れると、虫人形に亡き子の魂が宿るという。
令子は母親が自分をかまってくれると思いきや、母親は真奈の虫人形にしか関心がない。
令子は虫人形に嫉妬を募らせて…」
「虫屋シリーズ」第二弾です。
虫屋の生活が描かれたエピソードもあり、ウォーズマンみたいな笑い方をしながらも、実際は真面目なお人の様子。
また、「虫少年の恋」といった良い話もあり、スプラッター度は(蕪木彩子作品にしては)控えめです。
個人的なベストは「虫人形」。ブラック・ユーモアが冴えてます。
2022年11月24日 ページ作成・執筆