「宮脇明子ホラー&サスペンス・セレクション」(2006年8月26日第1刷発行)
収録作品
・「バースディプレゼント」
「市立第三中学校の三年Bクラス。
クラスのD班の甲田彩華は、大人っぽい美人であったものの、大人しく、決して目立つことのない少女であった。
一学期が始まってすぐに入院してから、ずっと学校に来ていなかったが、D班の諫早が彼女は長くないらしいとうっかり洩らす。
そこで、夏休みに入る前、D班の六人は病院に彼女を見舞いに行く。
彼女の誕生日は「9月29日」というので、誕生日プレゼントは何がいいか聞くと、彼女は憎悪を露わにしてこう答える。
産婦人科の息子の三枝(さえぐさ)耀司からは、素敵な家を
美人で高ビ〜な高樹未可子からは、その顔を
優等生の大本郁子からは、成績を
運動の得意な諫早からは、その足を
そして、仲のいい林葉大輔と植田穂波からは、林葉大輔を奪い、穂波の幸せをもらう…と。
皆は気まずい気分で病室を後にするが、15歳の誕生日を待たずして、甲田彩華は亡くなる。
中三の夏休みは皆、忙しく、二学期が始まったら始まったで、また日常に追い立てられ、彼女のことは忘れてしまう。
しかし、9月29日、大輔と穂波が下校している時、乱暴運転の車に轢かれそうになる。
更に、三枝の邸が火事になり、郁子も成績が急激にダウン。
二人共、「バースディプレゼントありがとう…」という奇妙な電話を受けていた。
次には、未可子がデパートの化粧室で顔を切りつけられ、諫早は足を骨折。
全ては、甲田彩華の呪いなのであろうか…?
穂波は大輔を守る決意を固めるが…」
・「図書館の少女」
「小学六年の夏休み。
石田和也は図書館をしばしば訪れる。
涼しいというのも一つの理由であったが、学校が別になった友人、山下太一と会うためでもあった。
図書館には、立ち入り禁止の二階に、薄い水色の服を着た少女の絵があり、その少女の幽霊が出ると噂される。
絵の少女は、以前の洋館の持ち主の一人娘で、ある日、右顔半分に火傷を負い、悲嘆のあまり、死んでしまったという。
そして、二階の絵は、顔の部分が陰になり、一階からは見ることができない。
金曜日の晩、和也が図書館の前を通りかかると、その曜日は夜遅くまで開いていた。
中には、太一がいて、水色の服を着た少女が彼をすり抜けて行く。
しかも、少女の右目のあたりにはアザがあった。
幽霊を視た和也は怖くて図書館に行けずにいたが、太一に会いたくて、久しぶりに訪れる。
太一に幽霊を視た話をすると、彼は「何かうったえたくて出てるんじゃないかな?」と答える。
その時、司書が席をはずし、二階に上がるチャンスができるのだが…」
・「試着室」
「千夏が小さい頃、小さな町にパール洋装服地店があった。
店は、おしゃべりなおばさんと無口で不愛想なおじさんの夫婦が経営しており、千夏のお隣さんで美人のハルミが店員として働いていた。
そこの試着室は、物置の一角を区切ったもので、奥のカーテンの向こうの在庫置き場には在庫の布地や解体されたマネキンがあり、千夏はそこに非日常なものを感じる。
ある日、千夏は、ハルミが、店のおじさんと一緒に歩いているのを目にする。
おじさんがいなくなってから、ハルミに話しかけると、彼女は戸惑った様子であった。
千夏は彼女が左手薬指にはめている指輪に見とれるが、ハルミは指輪のことも、おじさんと一緒にいたことも内緒にするよう言う。
それがハルミを見た最後の姿で、夏には、彼女は店を辞める。
それから数日後の花火大会の日、千夏は母親と共に、パールを訪れる。
試着室を覗くと、解体されたマネキンが入れられた箱から、手が突き出ていて、その指に、ハルミがしていたような指輪がはまっていた。
千夏はその指輪を外し、持ち帰るのだが…」
・「心霊写真」
「プロローグ 見えない手」
月丘は、中学校の同窓会の写真を撮るが、現像したら、失敗ばかり。
理由はわからないが、フィルムに光が入ったらしい。
頭を抱えている時、友人から電話がかかってくるのだが…。
「遠くに行きたい」
中学生の吉村公子(きみこ)は、何もうまくいかず、人生に倦怠感を感じる。
志望校はダメそうで、両親は不仲、片想いの相手は別の相手とくっついて、つまらないことばかり。
そんな時、修学旅行で彼女を撮った写真が、心霊写真だと騒ぎになる。
彼女の背後の窓ガラスに、顔らしきものが写っているように見えるのであった。
彼女はそれを定期入れに入れ、一人の時に眺めて過ごす。
それを見ているだけで、彼女は遠くに連れて行かれるような気になる。
そのうちに、公子は痩せ、陰気になり…。
大ベテラン、宮脇明子先生は怪奇マンガも優れた作品を多く描かれております。
この本では、中編「バースディプレゼント」よりも、「図書館の少女」「試着室」といった短編の方が印象的でした。
特に、「図書館の少女」はどんでん返しが効いていて、「幽霊もの」の隠れた傑作だと思います。
2021年11月9日 ページ作成・執筆