犬木加奈子「熱帯夜の怪談 犬木加奈子のホラー劇場」(2016年8月8日第1刷発行)

 収録作品

・「熱帯夜のちょっと涼しい談」(「マガジンSPECIAL」1997年7月号)
「卜部(うらべ)は、コンビニで深夜バイトをする青年。
 彼の働くコンビニは、オフィスの立ち並ぶ表通りにあり、深夜は全く人気がなく、うら寂しい。
 ある夜の帰り道、暗い歩道の真ん中に、白いワンピースを着た女が立っている。
 顔をそむけているので、表情はわからず、黙って通り過ぎるが、振り返ると、女の姿は消えていた。
 数日後の帰り道、同じ時間の同じ場所に、同じ女がまた立っている。
 今度はしげしげと観察し、顔を見ようとするが、彼女は顔を背け続け、気が付くと、首だけが180度回転していた。
 これはヤバいと思い、彼はその場から立ち去る。
 後日、コンビニのパートのおばちゃんから、深夜、その場所で若い女が車道にとび出して、はねられたと聞く。
 彼は今度は違う道を通るものの、彼の前にまた女が現れる。
 しかも、少し彼の方を向いていた。
 彼はバイトを辞めるが、次の職場に女の霊は出現して…」

・「ヒューマン・ブリッジ」(「増刊モーニングOPEN」1996年11月4日号)
「子供の頃、遊園地で催眠術の舞台に上がり、気が付くと、天子は催眠術師になっていた。
 彼女は華麗な術でショーをわかせるが、たまに、催眠術をかけた相手が抱える心の問題に直面する。
 ある時、ショーで彼女にいつも突っかかっていた男が彼女のもとにやって来る。
 彼はある悩みを抱えていたが、天子の催眠は彼を救うことができるのであろうか…?」

・「憑きもの」(「サスペンス&ホラー」1997年夏号)
「テル子の家は「とり憑かれた家」と近所で噂されていた。
 昔は問屋で羽振りがよかったが、祖母の代で傾いた上、男は皆、亡くなり、昔の旧家を改築した家に母親と共に暮らしていた。
 ある日、彼女は物置で、子供用の赤い下駄を見つける。
 テル子が子供の頃、夜中に家の周囲を「あけてよ」と言いながら、ぐるぐる回っていた少女がいて、その少女の下駄だと直感する。
 また、母親もテル子と同じような記憶を持っていた。
 テル子は、その少女が、祖母の代にこの家に子守として買われるが、追い出されて、死んだ霊だと知る。
 以来、テル子は少女の霊に憑かれるが、その霊の目的とは…?」

・「七つめの怪談」(「サスペンス&ホラー」1997年春号)
「中学校登校初日、「原井たまえ」のクラスは旧校舎の「1年×組」であった。
 彼女は、新しく友達を作ろうとするものの、クラスメート達はそれぞれグループになって、彼女を受け入れようとはしない。
 しかも、彼らはグループ内で、怪談を繰り返し語っていた。
 生徒が挟まれて亡くなった「あかずの防火扉」…
 自殺した生徒のものらしい、窓の外側につく手形…
 電車にとび込み自殺して、首が見つからなかったバスケットボール部の少年…
 一番後ろの席の後ろの現れるもの…
 美術部に飾られてある、何も描いてない絵…
 二回出入りして、三回目に入ると出られなくなる裏門…
 そして、「七つめの怪談」は…?」

・「屋根裏の幽霊」(「サスペンス&ホラー」1998年春号)
「出雲ミル子は霊感少女。
 両親は、彼女の療養を兼ねて、父親が相続した、町外れの古い屋敷に引っ越す。
 だが、そこは幽霊屋敷と言われていた。
 昔、有名な医者が住んでおり、事故にあった息子を無理矢理病院から引き取ってから、息子の消息は不明で、以来、いろいろとあるらしい。
 噂通り、その家には、幽一という名の、事故死した少年の霊が住んでいた。
 しかし、彼には、他の霊のように「ゾッとするような感情がせまってくる感じ」はない。
 二人は交流を重ね、慕い合うようになるが、彼は完全な幽霊ではなかった…」

 逸品揃いです!!
 「七つめの怪談」といった正統派ホラーから、「屋根裏の幽霊」のようなファンタジックな幽霊もの、「ヒューマン・ブリッジ」のような異色作とバラエティ豊かな作品が収録され、犬木ワールドの奥深さを堪能できます。
 中でも、個人的なお勧めは「憑きもの」。
 非常に高度な幽霊譚で、読み込むと、じわじわと怖さがきます。
 女性漫画家による幽霊譚のアンソロジーがもし編まれる機会があるのなら、山岸凉子先生の「貴船の道」、杉本啓子先生「闇に棲む」と共に推挙します。

 「犬木加奈子自選集B」(双葉文庫)と収録作品は同じようです。

2021年8月8・30日 ページ作成・執筆

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