稲垣みさお「稲垣みさお短編集C」(2021年11月15日初版発行/値段の記載なし)

 収録作品

・「視力∞」
「ある晩、川畑が友人と町を歩いていた時、右目のコンタクトレンズを落としてしまう。
 急いで拾って、帰宅後、コンタクトレンズを付けるが、翌朝、彼の右目に異変が起きていた。
 右の眼だけ視力が異常に発達し、人の衣類が透けて、裸に見えるのである。
 どうやら昨晩拾ったコンタクトレンズはこの世のものでなかったが、外そうとしても虹彩に引っ付いて離れない。
 初めは戸惑うも、彼は女性の下着や裸を透視して楽しむ。
 だが、視力が上がるにつれ、目を閉じても明るくて眠れず、また、人の内臓や筋肉まで透視するようになる。
 透視力はどんどん高じていき…」

・「我が家のペット事情」
「月曜日の朝、中学生の幸男はリカちゃん人形のような小さな腕を拾う。
 どうやら前を歩いていた中年男性が落としたもののようだが、彼は興味を感じ、家へと持ち帰る。
 飼い猫におもちゃ代わりに投げつけると、その腕はキャットフードを食べてしまう。
 見てみると、腕の付け根に口があり、そこで呼吸もしていた。
 幸男はその腕を大切に育てると、腕はどんどんと成長し、大人の腕ぐらいになる。
 そんなある日、今度は妹が小さな足を拾ってくる。
 その足も大切に世話をして、ぐんぐんと成長。
 そして、今度は母や祖母も同じように…。
 この手足は誰のものであろうか…?」

・「恐怖の薬 死の薬」
「横井は「恐怖」を感じない少年。
 何に対しても怖いといった感情を持たず、その無感情から他人に恐れられていた。
 ある日、陸橋を渡っていると、バスの回数券が風に飛ばされ、陸橋の下側に張り付いてしまう。
 手を伸ばしても届かず、そばにいた男の子に頼み、彼の身体を持ち、男の子に回数券を取らせようとする。
 ところが、男の子のズボンが脱げ、彼は落下し、車に轢かれてしまう。
 何食わぬ顔をして、その場をごまかし、彼のしたことは誰にもバレなかった。
 数日後、彼が墓場を近道していると、道に血の跡がついている。
 辿っていくと、ある墓に山田と名乗る老人が座っていた。
 老人の顔はボロボロで、どうやら生きた者ではない。
 老人は彼に飲めば必ず死ぬ「死の薬」と恐怖を感じるようになる「恐怖の薬」を渡すのだが…」

・「同封物」
「高校生のユウはコンビニのバイト。
 もうすぐバレンタインデーだが、彼には先日のコンパで知り合った愛香というターゲットがいた。
 ある日、恐ろしく不気味な女がチョコを買いに来る。
 そして、14日に着くように郵送サービスを利用するが、自分の髪の毛を同封するよう頼む。
 翌日も同じ女が来て、次は別の男にチョコを送り、自分の生爪を同封させる。
 その女は三日目も来て、今度は自分の歯を引っこ抜くが、ユウは思わず歯を投げ出してしまう。
 咄嗟に「もっとちゃんと心のこもったものをあげるべき」と言い訳すると、女はそのまま引き返してしまう。
 その後で、ユウが狙っている愛香がチョコを買いに来るのだが…。
 そして、迎えたバレンタインデー…」

 稲垣みさお先生の単行本未収録作品を集めた本です。
 あとがきによると、出版社が潰れ、紛失したと思っていた原稿が別の出版社から返却されたので、一冊にまとめたとのこと。
 二十年以上前の作品とのことなので、1990年代後半から2000年あたりに執筆された作品でしょう。(あの時代に潰れたのなら、蒼馬社かなあ?)
 個人的ベストは実に「奇妙な味」の「我が家のペット事情」です。
 稲垣みさお先生には奇想炸裂な作品が多いのですが、その中でもちょっとフツーでない発想です。

2024年5月29日 ページ作成・執筆

同人誌・リストに戻る

メインページに戻る