川勝徳重・他「蝸牛A」(2020年10月31日発行)

 収録作品

・川崎ゆきお「けやき屋敷」
「甲州街道。
 浪人の川原貧三郎は、人里離れた所に建つ屋敷の門に奇妙な貼紙を見つける。
 それには「浪人求む 一日三両」と書かれてあった。
 中に入り、裏に回ると、先客らしき浪人が一人と、部屋の隅っこに、この家の主らしき老人の死体。
 所在なく、彼らはそこでただ待つのだが…」

・高木ひとし「虫侍」
「雄太郎は、親元を離れ、横祖道場で剣の修行に励む。
 と言っても、道場は寂れて、弟子は彼一人。
 ある日、雄太郎と恋仲のおみつの父親が営む蕎麦屋でトラブルが起きる。
 ある侍が蕎麦の中に虫が入っているのに驚いたことに腹を立て、おみつの父親の片腕を切り落としたのである。
 雄太郎の先生は仇を討とうとして、あっさり返り討ち。
 おみつは侍に果たし状を出し、雄太郎は侍と勝負をする破目になるのだが…」

・七色祐太「虚しさの果てに見えるもの 〜久呂田まさみの貸本漫画〜」
 1960年代前半頃に描かれたらしい「久呂田まさみのA5判貸本単行本」に関しての考察。
 愛と深い洞察に満ちており、非常に参考になります。

・川勝徳重「柳が泣いている」
「慎之介は長崎から江戸に帰って来る。
 ある日、母親の散歩のお供をした時、老人の乞食に施しを求められる。
 母親は金貸しで、一度でも施すとクセになると主張し、慎之介は結局、逆らえない。
 その夜、良心の呵責に苦しみ、慎之介は玄海和尚と一緒にその乞食を捜しに行く。
 しかし、乞食は、不忍池の蓮の底で土左エ門となって発見される。
 慎之介はショックを受けるが、今度は母親の様子がおかしくなる。
 不忍池のあたりで延々とさまよい、乞食が死んだあたりで何かを感じているらしい。
 慎之介が和尚に相談すると、乞食の霊が成仏できず、怨霊になっているとのこと。
 二人は乞食が埋葬された場所を探すのだが…」

 「蝸牛」第二弾は「怪奇時代劇画特集」です。(注1)
 表装から太平洋文庫を模するという凝りようで、ビニールカバーの剥がし痕まで再現しているのにはビックリです。
 また、内容もバラエティに富んでいて、川崎ゆきお先生の初期短編、高木ひとし先生のユーモア作品、七色祐太氏のディープな評論と読み応えは充分。
 その中でも、最大の目玉は、川勝徳重先生の力作「柳が泣いている」でしょう。
 水木しげる先生の貸本作品のオマージュなのですが(注2)、どす黒い雰囲気の中、所々、ポンチ絵な描写や実験的なコマが挿入され、そういった異種混淆や落差が魔訶不思議な味わいです。
 でも、全くふざけているワケではなく、恐怖描写(特に、乞食の幽霊のシーン)は本気で怖く、作者の力量を感じさせます。
 繰り返しの鑑賞に耐えうる作品集ですので、皆様、お見逃しのないよう。

・注1
 恥ずかしながら、「蝸牛」第一巻は未入手かつ未読です。
 個人的な思い出ですが、人生で最初に東京に行った時、中野のまんだらけで「蝸牛」の単行本を目にしました。
 おっさんの頭にでっかいカタツムリがのっている表紙で「何、コレ…?」と思い、全く食指が動きませんでした。
 それから、云年…すっかり入手困難になってしまい、モノを見る眼のない自分にガッカリきております。
 再版していただけないものでしょうか?

・注2
 水木しげる先生の貸本作品をあまり読んだことがないので、どのような影響を受けているのかはわかりません。

2021年3月31日 ページ作成・執筆

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