あきいさむ「忌島にて」(2023年10月16日初版第1刷発行)
「ヒカルは、唯一の身寄りである祖父の住む南宮市に向かおうとする。
だが、ローカル線の電車運賃は予想以上に高く、貧乏学生の彼は二の足を踏む。
すると、駅員が南宮市にはバスで行く方が安いと教えてくれるが、決してお勧めはしない。
何故なら、忌島を経由するからであった。
忌島は湿地と断崖に囲まれた、岬の町で、昔は漁業が栄えたが、六十年前に伝染病が流行り、以来、すっかり寂れてしまったという。
そして、そこは非常に閉鎖的、かつ、奇妙なウワサの絶えない土地であった。
ヒカルは興味を持ち、バスに乗ってみるものの、バスはボロボロのボンネットバスで、しかも、運転手の容貌はかなり奇異であった。
忌島に着き、南宮市行きのバスが出るまで、ヒカルは町を散策する。
しかし、そこには荒涼とした街並みが広がるばかりで、人の気配が全くと言っていいほど、感じられない。
海に行くと、突堤に一人の娘が立って海を見つめていた。
彼女は泣いているようで、ヒカルは彼女のもとに行こうとするも、わずかな間に彼女は姿を消していた。
だが、少し後で、彼は彼女と出会う。
彼女は食料品店の娘で、名を児島ルミといった。
彼女は彼を崖の上にある電車の廃線へ案内する。
彼女と言葉を交わすうちに、二人の心はほぐれ、彼は「運命の出会い」を感じる。
しかし、平吉というアル中の老人から忌島の秘密を聞いたことから、彼は恐ろしい事件に巻き込まれることに…」
ラヴクラフトの傑作「インスマウスの影」のコミカライズです。
基本的なストーリーは原作に沿っておりますが、舞台を現代日本に置き換え、更に「ラブロマンス」の要素を加えることにより、親しみやすく(?)なっております。
また、あきいさむ先生は原作の「圧倒的な街の退廃感」に感銘を受けたとのことで、そこの部分はかなり力を入れております。
ただ、「町全体にこもっている魚の匂い」の描写がなかったのはちょっと残念。
あと、欲を言いますと、私は原作後半のスリリングな脱出劇が好きですので、そこをもっと凝ってくれたら、嬉しかったです。
ともあれ、「インスマウスの影」への愛情がビンビン伝わってきて、非常に味わい深い作品だと私は思います。
同人誌ということであまり知られていないようですが、もっと注目されて、読まれるよう願っております。(注1)
・注1
恐らくですが、本作を入手するには某大手オークションしかないようです。
安価で購入できますので、興味のある方はお早めに。
2024年9月22日 ページ作成・執筆