川勝徳重・編「現代マンガ選集 恐怖と奇想」(2020年11月10日第一刷発行)

 収録作品

・横尾忠則「週刊少年マガジン」1970年8月16日号表紙

・陽気幽平「ぬらり沼」(「墓場の鬼太郎I」(兎月書房)1961年頃)
「春。少年達は沼で大きな鰻を捕まえる。
 そこへ、百才翁(名は福成幸造)と呼ばれる老人が現れ、鰻は沼の主だから、逃がすよう説く。
 少年の一人が帰宅後、父親に鰻の話をすると、父親は、酒の肴にしようと、鰻を捕まえてくる。
 彼は、鰻を料理する前に、一眠りするが、その間に雨が降り、沼の水が溢れ出す…」

・楠勝平「蛸」(「破(ブレイク)」(東京トップ社)1967年頃)
「ある水族館。
 一匹の蛸が、あと二本、足が欲しいと願う。
 蛸は「何か超自然的なもの」にひたすら祈るが、その願いは叶わない。
 そこで、仲間を説得して、皆で祈るのだが…」

・岩浪成芳「悪魔っ子」(「オール長編劇画アパッチ(日本文華社)1969年6月1日号)
「新婚の春子は夫と、信州の高原で過ごしていた。
 ある日、買い物の帰り道、彼女はUFOに遭遇する。
 そのUFOから発する光で、春子は妊娠、九カ月後に女児を出産する。
 ルミと名付けられた女児は異常な成長を示し、二歳になる頃には、7,8歳ぐらいの大きさになっていた。
 更に、犬歯が鋭く伸び、瞳は怪しく輝き、生肉を好むようになる。
 「悪魔っ子」の正体とその目的とは…?」

・山川惣治「骨ノ兵隊さん 指輪」(「サンデー毎日増刊号「これが劇画だ」」(毎日出版社)1970年2月6日発行)
「チンピラの次郎は、夜の公園で、男から指輪を取りあげる。
 男は、土の中から指輪を見つけ出したところであった。
 次郎が指輪を指にはめた時から、白骨化した兵隊の幽霊が見えるようになる。
 兵隊は次郎を「ギックシャック ギックシャック」と追い続け、次郎は元ヤクザのおじのもとへと逃げ込む。
 おじは、十八年前、ヤクザの親分を殺害したことをきっかけに、霊に悩まされるようになり、以来、ずっと慰霊を欠かさずに続けてきた。
 おじが、兵隊の幽霊から話を聞き出すと…」

・小松崎茂「関東大震災」(「週刊少年サンデー」(小学館)1975年9月28日号)
 十歳の時、実際に関東大震災を体験した作者が、自己の記憶を再現した実録もの。

・丸尾末広「無抵抗都市」(「ガロ」(青林堂)1993年5.6.11.12月号/「月的愛人」(青林工藝社)2007年5月刊所収)
「1946年の夏、東京。
 若杉セツ子は、光という息子を連れて、夫が復員してくるのをひたすら待っていた。
 露天商をしていた時、背後の壁から、平井という小人の男が現れる。
 彼は米軍将校の知り合いだと言い、彼女の家に食料を届ける。
 彼の魂胆は見え見えで、彼女は彼に対して無関心で応えようとするが、背に腹は代えられない。
 彼女は、彼の経営する焼鳥屋で働くこととなるのだが…」

・北見昭男(aka 橋本将次)「女を狙え」(「スクスク」(兎月書房)1961年頃)
「犯罪者の一味が、若山常務の妻、節子を誘拐する。
 彼らは八ミリカメラで下着姿の彼女が乱暴されるところをフィルムに収め、若山を脅迫。
 若山は彼らの指示に従うのだが…」

・凡天太郎「河童」(「漫画パック」(芸文社)1968年12月号/「凡天太郎劇画作品集 怪奇編」(凡天劇画会)2012年8月刊所収)
「ある青年が、河童が自動車に轢き殺されるところに遭遇する。
 哀れに思い、彼は河童を埋葬すると、翌日の夕方、彼に美女が声をかけてくる。
 その美女は、死んだ河童の妻であった。
 彼女は、彼を「河童の国」にお連れしたいと申し出るのだが…」

・呪みちる「赤いトランク」(「恐怖の快楽」(ぶんか社)2001年6月号)
「長い海外旅行から帰って来て以来、夫は妻に対して無関心になる。
 彼は部屋に閉じこもることが多くなり、妻を決して部屋に入らせない。
 夫の豹変の原因を、妻は、海外旅行から持ち帰った、赤いトランクにあると感じ、夫の留守の間に、合鍵を使って、部屋に入る。
 彼女が赤いトランクを開けると…」

・金風呂タロウ「訪問」(「ホラーコミックレザレクション vol.01」2017年11月30日号)
「ある夫婦が、マンションの一室に引っ越して以来、玄関チャイムを鳴らされるといういたずらが度々起こる。
 しかも、犯人はずっとわからないまま。
 ある日、あまりにしつこいので、妻がドアを開けると、何かが部屋に入り込み、ペットの犬を犯す。
 犯された犬は妊娠しており…」

・新谷成唯「voice/声の存在」(「幻燈 No.3」(北冬書房)2001年5月25日号)
「ある青年が、近所に住むバツイチの中国人女から、女児を預かる。
 女は姿を消し、彼は女児を世話する破目になるが、二人の間には拭い難い不信感がわだかまっていた。
 女児は何やら病気のようで、彼は病院へ連れて行こうとするのだが…」

 怪奇漫画のアンソロジーと言えば、有名作家の作品を並べて済ましたものが多いのですが、川勝徳重氏・編集のこれは一味も二味も違います。
 氏は「街頭紙芝居」と「戦後をどうとらえるか」をテーマに作品を絞り、紙芝居作家出身の作家、かつ、半世紀前の作品が半数を占めております。
 これによって、日の目を見ないところ(帯の惹句によると「裏街道」)で発展し続けて来た、怪奇漫画のルーツとその発展を鮮やかに例示できたように思います。
 同時に、その歴史の底流には、日本人が心性の中で脈々と受け継がれてきた「奇なるもの」(うまく表現できませんが…)がひっそりと息づいていることも。(注1)
 この「奇なるもの」は時代時代で形を変え、いくら科学文明が発達しようとも、心の片隅の底知れぬ深淵で蠢いております。
 それに真正面から組み合って、呑み尽くす、怪奇漫画の「懐の深さ」、そして、「貪欲さ」!(注2)
 時が過ぎても全く衰えない、そのパワーに触れてみたい方は是非ともお読みになるよう、心からお勧めいたします。

 個人的なお気に入りは、岩浪成芳先生「悪魔っ子」と小松崎茂先生「関東大震災」。
 一部でしか知られてこなかった岩浪作品が、大手のちくま文庫で掲載されたことは快挙です!
 これをきっかけに、注目が集まり、積極的な評価がされることを祈ってやみません。
 「関東大震災」は、地震をテーマにした漫画の中では、間違いなくトップクラスの作品です!
 圧倒的な生々しさ・迫力に、作者の途方もない「絵力」と鋭い観察力を感じます。

・注1
 「奇なるもの」は日本人にとって恐怖の対象であると同時に、非常に魅惑的なものでもあったはずです。
 でなかったら、あれだけの怪奇小説や、妖怪画、幽霊画が存在するはずがない!!
 日本人にとって「Fear is a man's best friend」(by John Cale)なのではないでしょうか。

・注2
 いろいろと思うところはあれど、なかなかまとまらず、また、うまく表現できない。
 時が経って、考えが深まるようなことがあれば、加筆訂正したいと思います。

2020年11月12・15〜17日 ページ作成・執筆

アンソロジー/復刻作品・リストに戻る

メインページに戻る