陽気幽平「恐怖の爪/虫坊伝」(2022年8月13日発行)

 収録作品

・「恐怖の爪」(「妖霊A」(兎月書房)掲載)
「太平洋戦争後の昭和22年(1947年)。マレー半島のとある場所。
 松山省三を隊長とする日本軍の一隊が本隊と合流すべくジャングルをさまよっていた。
 松山は足手まといになる部下には冷酷無慈悲で、力尽きた金田守は放置され、大蛇に襲われ負傷した吉岡進は殺されてしまう。
 松山の日本へ帰国したいという執念は凄まじく、井上良吉は松山に対して不信感を抱くようになる。
 たった二人になり、這う這うの体で草原を抜けた時、土人の部落があり、一軒の小屋を発見する。
 そこには、日本から日本語を教えに来た花山利男と妻の美子が住んでいた。
 美子は妊娠中であり、利男は出産が済み次第、日本に帰国する予定であった。
 松山は花山の帰国許可書に目を付け、それを奪おうとする。
 止めようとした井上は銃で撃たれて負傷し、利男も射殺、許可書を持って逃げようとする美子も同じく射殺される。
 松山は許可書を手に入れたものの、美子を追う時、コモドオオトカゲの卵を踏み潰し、親トカゲに襲われる。
 親トカゲに頭を殴られ、意識朦朧となるも、どうにか日本へと帰国。
 しかし、頭に食い込んだトカゲの爪は彼の血肉と一体化し、彼を苦しめる。
 そして、あの事件から八年後、井上と花山夫妻の息子、正夫は、松山への復讐のため、日本を訪れる…」

・「悪霊の谷(aka 虫坊伝)」(左文字重太郎・名義/三洋社)
「夏。宇津の谷峠。
 松平家の重臣、堀井兵馬は、叔父の半造と医者の竹庵と共に峠を下っていた。
 半造は、兵馬の財産を狙い、竹庵と共謀して、兵馬を殺そうともくろむ。
 そんな時、一匹のかぶと虫が兵馬にまとわりつく。
 半造はかぶと虫を殺そうとするが、兵馬はこれを助ける。
 かぶと虫のせいで兵馬を殺すタイミングを逃し、半造は毒入りの酒を兵馬に飲ませ、崖から突き落とす。
 しかし、その現場を金吾という腕利きの浪人が目撃していた。
 金吾は金だけが目当ての冷酷な男で、金子達の仲間となる。
 一方、堀井家では、妊娠中の妻、花枝が夫の帰宅を待ちわびていた。
 仲間(ちゅうげん)の佐助は藤枝の宿に様子を見に行くが、半造達しかいないことを不審に思う。
 半造は佐助と宇津の谷へと誘い出し、そこで金吾が佐助を襲い、佐助は崖から転落。
 翌日、半造は堀井家を訪れ、兵馬が来年の夏まで江戸に勤めることになったと話す。
 佐助が戻って来ず、今度は佐助の父、正作が捜しに行くが、竹庵は彼に毒酒を飲ませ、首つり自殺を偽装。
 正作の自殺の知らせを聞いた後、花枝は産気づき、虫太郎という男児を出産する。
 夏の終わり頃、夫から知らせがないのを不安に思い、花枝は虫太郎と共に江戸に向かう。
 途中、花枝は助中と当八の雲助二人組にムリヤリ駕籠に乗せられるが、雨にあい、古寺で一休みをする。
 実は、雲助達は半造に雇われ、花枝と虫太郎の命を狙っていた。
 だが、恐ろしい容貌をした男が現れ、逃げ出そうとした時、駕籠屋を追っていた金吾と竹庵がやって来る。
 金吾は花枝を斬殺し、それを見た雲助達は心変わりして、赤ん坊を助けようとする。
 しかし、雲助は二人とも殺され、虫太郎は崖へと転落。
 死んだものと思われたが、兵馬に助けられたかぶと虫が音頭を取り、虫太郎は虫達によって育てられることとなる…」

 陽気幽平の最高傑作と言われる「恐怖の爪」と、虫に育てられた男児を描いた、未完の作品「恐怖の谷」のカップリングです。
 「恐怖の爪」はコモドオオトカゲが独白するコマがあり、印象的でした。(何故…何故にコモドオオトカゲ…)
 「恐怖の谷」は「因果応報もの」で陰惨なストーリーではありますが、虫太郎が妙に明るく、屈託のないところが魅力に感じます。
 彼を守る虫達の描写もユーモラスで、気分はほのぼの。(集団だと凶暴ですが…。)
 両親の仇に復讐を始めるあたりで、作品が終わってしまい、これは返す返すも残念です。

 付録ペーパーには、茶蟻氏による「陽気幽平とその周辺について」が掲載されております。
 おったまげる程、濃い内容で、この「ストーカー気質」が非常に心地よいです。

2022年8月24日 ページ作成・執筆

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