「怪奇貸本収蔵館第八号 橋本よしはる・編」(2021年12月26日初版発行)
・ブリッジ・龍・名義「馬鹿ほど恐いものはない」(「恐怖マガジンA」(三洋社)収録)
「嵐の日、浜辺に一艘の舟がたどり着く。
舟には男が一人。
愚鈍な彼は、兄夫婦に殺されそうになり、青山から内地へ渡ってきたのであった。
彼は浜辺に近い屋敷へと向かう。
その屋敷の主人は弁護士の老夫婦であったが、今は娘の道子と執事の金山だけであった。
屋敷の猟犬は男を襲うも、逆に引き裂かれて殺される。
金山の反対にも関わらず、道子は男を屋敷の中に入れ、食事を与える。
しかし、金山はその食事に猫いらずを入れており、男は悶え苦しみながら昏倒する。
金山は、食事を勧めた道子も同罪だと脅し、男の死体を海へと投げ入れる。
夜更け、金山が道子の寝室にやって来る。
彼は道子の高飛車な態度に反感を抱いており、この機会に彼女の操を奪おうとするが…」
・天堂三郎・名義「空家」(水木しげる「墓場鬼太郎A」(三洋社)併録)
「石原は刑務所から出てきた時、老人に仕事を持ちかけられる。
それはある空家に一晩泊るだけの仕事であった。
その空家は高原の湿地にある大きくて古い山荘で、老人はこれをホテルに改装しようと考える。
しかし、麓の村ではここに「妙なもの」が棲んでいるという噂があり、空家に屈強な男を一人送り込むも、行方不明になっていた。
老人の話に興味を持ち、石原は空家を訪れる。
空家の中には、まず登山用のナイフの突き刺さった犬の死体がある。
風呂場では山犬に襲われ、これをナイフで撃退。
更に、浴槽の中には、先にここを訪れた男性のものらしい骸骨があった。
石原はここに誰か住んでいると確信するが、その時、どこからか麝香の香水の匂いが漂ってくる。
女の姿を目にして、彼が二階に上がると、奇怪な男が現れる。
男は屍肉を食べており、石原に襲い掛かるが、ナイフで傷つき、退散。
肩を噛みつかれた石原も空家から一時退却する。
外で石原は老人と会い、手製の催涙ガスをもらう。
空家の最上階には灯りが灯り、石原はその部屋に突撃するのだが…。
空家に潜む者の正体は…?」
中表紙の惹句によると、「兎月書房史上、もっとも色気のある女性を描ける作家。もしムード貸本というジャンルがあったなら、これがそれ。」とのことです。
確かに、「馬鹿ほど恐いものはない」の娘が襲われるシーンはなかなかのもので、それも納得。
個人的な印象としては、モダンさと土俗さが入り混じった作風で、アクション・シーンはかなり見せ方がうまいです。
突拍子のない残酷描写もグロテスクなわりに、どこか乾いていて、不思議な手触りです。
当時としては、西洋ホラーの影響をうまく採り入れているのではないでしょうか?
付録ペーパーには、辻中雄二郎氏による解説「橋本よしはると長井勝一」が掲載されております。
2022年10月11日 ページ作成・執筆