「怪奇貸本収蔵館第九号 陽気幽平・編 其二」(2022年8月13日初版発行)
・道化画人(aka 陽気幽平)「そこは闇だった」(竹内寛行「墓場鬼太郎D」(兎月書房)併録)
「終戦後の荒廃した日本。
焼け跡で、石川貞吉と吉田元という男が二人、仕事を探していた。
とは言え、この状況では仕事などなく、吉田は強盗をする決心をする。
石川は止めるが、吉田の決意は固く、仕方なく協力することとなる。
夜、二人はある家に押し入る。
その家は夜の十一時までは女中が一人で留守番をしていた。
吉田は刃物で女中を脅し、主人の部屋に案内させる。
その部屋で二人は大金を手にするが、主人が家に戻ってくる。
助けを求める女中を吉田は刺し、二人は慌てて家から逃げ出す。
すぐに警察の手が回り、二人が廃墟となった建物に隠れようとしたところ、建物が崩落、吉田は瓦礫に埋もれてしまう。
石川は、吉田に自分の形見だとメダルを渡し、自らおとりとなって、警察に捕まる。
十数年後、瓦礫から這い出した吉田は、盗んだ金を資本に、吉岡建築株式会社の社長となっていた。
ある日、彼は労務員の人名簿に石川の名前を見つける。
石川は刑を終えてから、行方不明となっており、吉田はずっと捜し続けていた。
吉田の過去を知っているのは、石川一人で、石川さえいなければ、自分の地位は安泰。
翌日、吉田は、殺し屋を連れて、ダム建設現場を訪れる…」
・成田清(aka 陽気幽平)「目の波」
「日本に向かう船。
マドロスの虎と鉄は、嵐を利用して、永田船長の部屋から「アラフラの真珠」を盗み出す。
だが、現場を船長に見つかり、虎は船長を撲殺。
船長は「今に海の怒りの恐ろしさを知るぞッ」と今わの際に言い残し、その死体は波にさらわれる。
日本に戻ってから、虎と鉄は真珠を金に換えようとする。
しかし、酒場で鉄がうっかり真珠のことを漏らしてしまい、暴力団のボスに目を付けられる。
二人はボスの手下に襲われた際、鉄が真珠を持って逃げ出してしまう。
虎は鉄を追うのだが…。
「海の怒り」に触れた二人の運命は…?」
本多恒美(本名?)が「陽気幽平」と名乗る以前の短編が二編収録されております。
陽気幽平・作品は泥臭い「因果応報もの」のイメージが強くありましたが、この二編は現代を舞台にした「ノワール」です。
一応は「因果応報もの」ですが、説教臭さは皆無で、「業を背負った主人公が破滅に向かって突き進む」というストレートな内容です。
そのサスペンスフルかつ非情な展開は他の陽気幽平作品と較べると、異色でした。
また、ただの犯罪ものでなく、幻想的な味付けがしてあって、不思議な手触りがあります。
特に、「目の波」は、バッド・トリップのようなおどろおどろしさと、「海の怒り」という神秘的な要素が融合して、壮大ささえ(ちょびっと)感じさせます。
再ブームの今、陽気幽平に触れたことのない人は一度、お読みになってみては如何でしょうが?
「謎の貸本B面作家」という言葉では想像もつかないほどの、奥深く、豊潤な世界が広がっております。
付録ペーパーには、出口ナオト氏による解説が掲載されております。
2022年8月23日 ページ作成・執筆