「怪奇貸本収蔵館第十一号 南竜二・編 其二」(2024年8月10日初版発行)

 収録作品

・白骨太郎「吸血鬼の最後」(「恐怖マガジン@」(エンゼル文庫)所収)
「山に宇宙船が墜落する。
 唯一生き残った乗員の湯川は船外に脱出するも、彼の身体には異変が起きていた。
 彼の両掌には吸盤のようなものでびっしりと覆われ、助けに駆けつけた若い姉妹から血を吸い取って殺してしまう。
 半月後、彼は家族のいる家の前にいた。
 妻や子供が恋しいが、この身体では再会するわけにはいかない。
 そこで彼は夜中に医者の所に行き、両手を切断してもらう。
 だが、彼の両手は切断されても生きていた。
 更に、彼の身体も吸盤に覆われて…」

・南竜二「怪猫異変」(「時代怪奇傑作集 怨霊」(一晃社)所収)
「1550年〜1560年の頃。
 瀬戸内海沿岸に天明城という城があった。
 城主の天明氏勝は非常に猫好きで、彼は多くの猫を自室に飼っていた。
 ある夜、猫たちが夜遅くまで鳴きやまない。
 実は家来の九鬼竜玄が謀叛を企てており、彼は氏勝に眠り薬を飲ませ、暗殺に成功する。
 城主となった九鬼はまず、十日以内に領内の猫を皆殺しにして、領内の犬を城に差し出すようお触れを出す。
 これによって、領内から猫は姿を消すも、九鬼は絶えず猫の姿に怯え続ける。
 一年後、領内ではネズミが大発生し、畑や家を荒らしまくる。
 また、領民たちは重税にも苦しみ、各部落長は城主に嘆願状を提出。
 しかし、訴えは届かず、海沿いの崖で彼らは銃殺されることになる。
 そこに何千匹もの猫の大群が押し寄せ、銃を持った侍、三十人を惨殺。
 九鬼は氏勝の祟りかとますます思い悩むようになり…」

 南竜二先生は中表紙によると「佐々幸二郎・佐々幸二・サッサ幸・初音三郎・北竜介・長谷川四郎そして白骨太郎と数多くのペンネームを使い分けた裏方作家」とのことです。
 南竜二・名義の作品は唐沢俊一氏・編集による名アンソロジー「地獄で笑う男」にて「地獄の使者」を読むことができますが、別名義の作品は怪奇貸本に鼻先まで浸かった人でないと目にしたことはないのではないでしょうか。(私はもちろん、さっぱりです。)
 今回、復刻された作品は妖奇七郎さんが「今までどれだけこの作品を出したかった事か」と仰っていただけあって、どちらも読みごたえがありますが、個人的には白骨太郎・名義「吸血鬼の最後」に感銘を受けました。
 真に「悪夢的」な傑作の一つだと思います。
 ストーリーは解説ペーパーで桜田健璽氏が「『原子人間』という映画に影響を受けている」と指摘している通りですが、作者がろくろく内容については考えないまま描きとばしたがために、無意識の奥に押し込められている「暗くどろどろとしたもの」がダイレクトに紙面に溢れ出ているいるように感じます。
 もちろん、原水爆への不安・恐怖もありましょうが、ここにあるのは「モンスターが人を見境なく殺しまくって死ぬ」という身も蓋もないものでで、日本的な「因果応報」から遠く離れた「無差別的」なところが作品に芯から殺伐した印象を与えております。
 「地獄の使者」もですが、これって当時の日本ではまだ珍しい感覚だったのではないでしょうか?(あくまで推測ですけど…)
 あと、併録の「怪猫異変」は猫の大群が襲いかかってくるシーンが非常に素晴らしく、動物パニックものの先駆かも?と思いました。
 紅一点のさくら姫がなかなか可憐で、彼女には幸せになって欲しかったものです。

2024年9月4・5日 ページ作成・執筆

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