まんがゴリラ・編集「sludge@」(2022年8月14日初版発行)
収録作品
・黒澤伸「傴僂と蛙」(「漫画情報」1968年10月8日号)
「深い山中の一軒家。
そこに、樵のセムシ男と知恵遅れの娘、ルリ子が住んでいた。
セムシ男は、捨て子だったルリ子を育てたことを恩を着せ、ルリ子の裸体に酒をかけて、それを啜っては、いつも酔い潰れる。
ルリ子は、足りないながらも、こんなことを誰でもしているのかと疑問に思い、「マチ」という所に思いを馳せる。
ある日、セムシ男の留守の時、一人の青年が山小屋にたどり着く。
彼は「マチ」からやって来て、登山をしている最中に遭難したのであった。
青年はルリ子が世間知らずなのをいいことに…」
・鹿島潮風「下着マニアの殺人」(「漫画情報」1968年10月8日号)
「クリーニング店で働く青年。
鬱々とした日々に加え、彼は田舎から一緒に上京した女性にだまされ、全くいいことなし。
そんな彼は覗きに楽しみを見出すようになる。
覗きだけで満足できなくなった彼は下着へと興味が移り、下着を盗むようになる。
エスカレートしていく欲望の果ては…?」
・わたなべ弘「地下室の野獣」(「漫画情報」1968年7月24日号)
「クラブ花でのホステス殺人事件。
死体は暴行の後、絞殺されており、出勤してきたホステスにより発見される。
このクラブには源さんという唖でセムシの老人が管理人として住み込んでいるのだが…」
・石川昭次「黒い24時間」(「漫画情報」1968年7月24日号)
「山野一郎(35歳)は、大川産業会計課に勤める、うだつの上がらぬサラリーマン。
彼は出勤途中、子供達に捕まったカラスを助ける。
妙に共感するものを感じ、懐に入れていたが、会社でカラスが課長を襲って、大騒動。
帰宅を命じられた彼は飲み屋で痛飲し、暴言を吐いたために、学生運動家達に乱暴されそうになる。
そこを見知らぬ娘に助けられ、連れて行かれたのは「BAR カラス」。
彼はそこで美女達から至れり尽くせりの歓待を受ける。
朝になったので帰ろうとすると、女主人が、いいものを見せると、別室に案内するのだが…」
・ヒロタ・タツヤ「赤い傷跡」(「漫画情報」1968年7月24日号)
「東大病院に籍を置く、細胞学の権威、坂田女史。
彼女は生後一年の時、熱湯を全身に浴び、身体中が赤い傷痕で覆われていた。
そのため、男に相手にされず、常に欲求不満。
ある夜、彼女は死刑囚の男根を手に入れ、それをもとにモンスターを作る。
若い娘をさらい、男根モンスターを愛撫させると、モンスターは口から白い液を噴出。
その液体に身を浸すと、坂田女史の傷跡は消えていく。
だが、トルコ嬢の愛撫が激し過ぎ、興奮したモンスターが…」
・西本達生「恐怖のサイケ惑星人」(「アパッチ」1968年8月号)
「海底火山の噴火によって、南太平洋に現れた小島。
そこにサイケ惑星人が基地を作るために宇宙船で降り立つ。
だが、放射能のために、女隊員の一人がサイケ病(身体にサイケ模様の現れる病気)を発症、宇宙船はひとまず島を離れる。
この近くの島に、黒田熱帯病研究所があった。
黒田博士は助手の江川と共に島を訪れる。
黒田はサイケ惑星人の死体を発見し、その皮膚からサンプルを持ち帰る。
彼は極秘にこのサンプルを研究し、サイケ病の病原菌を抽出する。
人体実験のため、黒田は調理師の大田と娘のマリを島に連れて行くが…」
・小坊大師「Oくんの妄想」(「ヒットパンチ」1968年10月号)
「(コメント不可能)」
・清水尾佐虫「殺しの惨歌」(「別冊土曜漫画」1971年7月号)
「ある殺し屋。
三億五千万円という報酬と引き換えに、残忍な方法で四人のヤクザに復讐するよう依頼が来る。
依頼主は財産家の老人で、彼の娘は四人のヤクザにヤク中にされた挙句、自殺していた。
殺し屋による復讐の方法とは…?」
・石黒錠「女はその一瞬に賭ける!!」(「漫画ボイン」1972年6月30日号)
「全裸の女性が二本の手に襲われる。
彼女を見つめる、謎の目の正体は…?」
・瀬沼一郎「秘画の背景」(「劇画エロタージ」発行年月日不明)
「矢島周造は初老の画家で、田舎の別荘で創作に励んでいた。
彼の妻は美人で若く、傍からは羨ましがられたが、妻は周造に不満を抱き、高木という男と不倫をしていた。
妻と高木は周造を殺す計画を立てるが、それは周造の知る所となり…」
まんがゴリラさんの編集による「sludge」は「辺境劇画(1960年代後半から70年代前半にかけて三流実話雑誌に掲載された作品)」のアンソロジーです。
今まで全くと言っていいほど、顧みられることのなかった作品を発掘し、日本の漫画の地下水脈の一端を明らかにしようとするこの試み…非常に先駆的な仕事だと思います。(注1)
しかも、収録作品の全てが、公序良俗なんか歯牙にもかけない、徹底して「俗悪」(注2)な内容!!
しかしながら、そこには、三流実話雑誌にしか活躍の場がなかった無名漫画家達のこもりにこもった鬱憤がまさに暴発しており、商業的に「つくられた」作品にはない「でたらめさ」「ヤケクソさ」、そして、「生々しさ」に満ち溢れております。
その最良のサンプルになるのは、鹿島潮風「下着マニアの殺人」でしょう。
内容もさることながら、この主人公の目つきは凡百の漫画家には決して真似ができないものです。
恐らく、作者はこの漫画を描いている時、主人公と同じ目つきをしていたはずですし、読者である我々も読んでる最中、同じ目つきになっているはずです。
こんな漫画って他にあるでしょうか?!
どの作品にもいろいろと思うところはあり、わかる範囲でプチ解説をしようと思ったのですが、諸事情により今回は遠慮させていただきます。(またの機会に。)
ちなみに、まんがゴリラさんは「sludge」の続刊を考えておられるようです。
無価値と鼻もひっかけられなかった作品に「俗悪」という光が当てられ、今のこの世に妖しい輝きをもって甦る様を思うと、無性にワクワクしてきますね。
・注1
しかも、裁定制度を利用して、権利関係を全てクリアしております。本気しか感じない…。
・注2
「低俗」とはまた意味合いが違います。
最大の違いは「ウケを狙っているかどうか」だと考えております。
「低俗」な作品にも注目すべき作品は多々ありますが、「辺境劇画」にはそんな小器用さはありません。
人生を、魂を削って、全身全霊で描いております。
そこまでしながらも、出来上がったものがアレ…というところがただひたすらに愛おしい…。
2022年12月30・31日 ページ作成・執筆