亜月亮「汝、隣人を×せよ。@」(2018年9月12日第1刷発行)
20XX年。
凶悪・多様化する犯罪の抑止とそれらから弱者を守るため、「一生一殺法」が制定される。
これは、自らの人生と人権を守るため、「一生涯につき一人だけ殺人を許可される権利」(殺益権)を保証するものであった。
そして、「殺益」(この法律では殺人をこう呼ぶ)を司るのは政府から委託された民間団体である「殺益執行委員会」。
殺益執行委員会には独自の機動性と超法規的措置が認められており、殺益申請の受付、調査、殺益執行を行っている。
中でも関東支部13班(未来・辰之助・圭斗)はクセモノ揃い。
彼らが扱う事案とは…?
・「murder.1」(「JOURすてきな主婦たち」2018年3月号)
「安永明日美は小学六年生の女の子。
彼女は母親の再婚相手の安永俊希からDVを受けていた。
母親は働き過ぎにより急死し、明日美に遺された保険金目当てに義父は彼女を養ってはいるが、ろくに働きもせず、児童手当をギャンブルにつぎ込んでいた。
殺益申請ができるのは14歳以上で、明日美はあと二年、生きられるか不安で仕方がない。
とりあえず、関東支部の出張所に申請書を出しに行くも、「保留」という形で受け取ってもらえただけであった。
ある日、明日美は義父から万引きの手伝いをするよう強要される。
万引きは失敗し、彼女は義父からの暴力を怖れて、陸橋から跳び下り自殺を図る。
それを見知らぬ女性が止め、彼女は、だまされたと思って、あと一日生きるよう勧める。
「思わぬログインボーナス」とは…?」
・「murder.2」(「JOURすてきな主婦たち」2018年5月号)
「矢切要(21歳)は十数頭もの小動物を虐待死させ、その動画をネットに流していた。
警察に捕まるも、結局は器物損壊罪止まりで、矢切には執行猶予付きの判決が下る。
だが、宮本奈央は納得できない。
彼女は家族同然の愛猫を残酷な方法で殺され、恨み骨髄に徹していた。
彼女は殺益執行委員会に矢切要の殺益申請をするのだが…」
・「murder.3」(「JOURすてきな主婦たち」2018年6月号)
「一度は不受理になった殺益申請だが、再申請の可能性もあるという。
だが、矢切は来週から海外に留学するため、奈央に時間は残されてない。
そこで彼女は矢切の住む離れに忍び込む。
彼女の手にはタオルでくるんだ包丁が…」
・「murder.4」(「JOURすてきな主婦たち」2018年7月号)
「N中学校。
黒木綾菜、仁科ひとみ、佐野友香は窮地に陥っていた。
彼女たち三人は同じクラスの石崎みのりを陰でいじめていた。
合唱コンクールの時、石崎みのりの座っていたピアノの椅子の脚が折れ、彼女は転倒して、肘を骨折。
原因を調査したところ、ピアノの椅子に細工していた三人が防犯カメラに映っていたため、いじめが明るみに出たのである。
三人はみのりが自分たちを殺益処分するのではないかと怯え、彼女の家に謝りに行く。
それに川南美枝子という大学教授が同行していた。
川南美枝子は以前、いじめに加担したことがあり、その反省から、加害者と被害者の間の溝を埋める努力を説いていた。
彼女は中学校内に殺益執行委員会が潜入していることに気付き…」
・「murder.5」(「JOURすてきな主婦たち」2018年8月号)
「河南美枝子はいじめっ子三人には「心からの謝罪」、石崎みのりにはいじめっ子たちから「反省する機会を奪わない」よう訴える。
だが、石崎みのりは何も言わず、ずっとスマホを握りしめているだけ。
ある日、大学で河南美枝子の講演会が開かれる。
彼女は控室に黒木たち三人と石崎みのりを集めるが、その場に殺益執行委員会が現われる…」
「一生一殺法」という架空の法律を通して「復讐」というものを活写した意欲作です。
刑法による死刑よりも簡単にできる「殺益」と、結局は変わらない人間の本性の狭間でのドライな駆け引きが見どころと言えましょうか。
また、法の抜け穴を捜そうとしたり、法律が必ずしも完全ではない点も描いている点も興味深く感じました。
ただ、私は加害者にも加害者なりの「理由」(注1)があると思ってますので、多少、受け入れられない部分はあります。
とは言え、その「理由」を知っても、許す気になれない輩が多いのは認めざるを得ません。(特に、いじめに関しては非常に難しい。私もいまだに許せない奴がいる。)
復讐したら前に進めるものなのかどうか…途方に暮れるばかりです…。
・注1
映画監督のジャン・ルノワールは自身の映画の中で悪人が何故出ないのかと問われて、「人には皆、理由があるから」と答えたそ〜な。(本当の話なのかどうかは不明。)
犯罪が起こっても、「結果」ではなく「原因」に目を向けるべきなのはわかってる。
そうしないと、結局はまた同じことの繰り返し。
でも、それが難しい…。
2025年2月11日 ページ作成・執筆