亜月亮「汝、隣人を×せよ。A」(2019年3月12日第1刷発行)
20XX年。
凶悪・多様化する犯罪の抑止とそれらから弱者を守るため、「一生一殺法」が制定される。
これは、自らの人生と人権を守るため、「一生涯につき一人だけ殺人を許可される権利」(殺益権)を保証するものであった。
そして、「殺益」(この法律では殺人をこう呼ぶ)を司るのは政府から委託された民間団体である「殺益執行委員会」。
殺益執行委員会には独自の機動性と超法規的措置が認められており、殺益申請の受付、調査、殺益執行を行っている。
中でも関東支部13班(未来・辰之助・圭斗)はクセモノ揃い。
彼らが扱う事案とは…?
・「murder.6」(「JOURすてきな主婦たち」2018年9月号)
「尾崎家は両親と兄妹(一樹、二葉)の四人家族。
昔は幸せな家族であったが、一樹が志望大学を落ちたことから全てが暗転する。
引きこもりになった一樹は受験失敗を家族に責任転嫁し、ことあるごとにキレて、暴れまくる。
しかも、二葉が名門私立高校に入学したことが火に油を注ぐ結果となり、尾先家はボロボロであった。
だが、両親は一樹は本当は良い子で、自分たちが知らず知らずのうちに彼を追いこんだと擁護する。
また、警察は家庭内暴力の介入には消極的で、事態は悪化の一途をたどる。
ある日、二葉は一樹の横暴な振る舞いに腹を立て、自分が変わらないと何も変わらないと訴える。
一樹はそれに逆ギレし、遂には妹にまで暴力を振るう。
両親は彼女を叔母のもとに送り、その夜…」
・「murder.7」(「JOURすてきな主婦たち」2018年10月号)
「河上慎也(33歳)は家庭持ちの普通のサラリーマン。
妻の幸恵とは同じ大学の同級生で、二人は莉音という女児に恵まれていた。
ところが、慎也は基本、遊び人で、契約社員の満嶋まりか(既婚者)と不倫をする。
最初は遊びにつもりだったのだが、まりかは慎也に本気になり、彼の妻に嫌がらせのメッセージを送る。
しかし、妻は決してこのことで彼を責めようとはしない。
両親の呵責を覚えつつも、まりかに脅され、慎也とまりかは週末に温泉旅行に行くのだが…」
・「murder.8 the first part」(「JOURすてきな主婦たち」2018年11月号)
「南野結衣は普通の女子高生。
彼女の父親は注がこの頃から非常に厳しくなり、彼女の行動をいちいち干渉する。
彼女は友達と旅行に行くため、塾に行くと偽って、コンビニでバイトをするが、そこで塚本という老男性と仲良くなる。
塚本は彼女と同じ頃にバイトで入ってきて、とても優しく温かい人柄であった。
ある晩、バイトからの帰宅途中、彼女は二人組の男に呼び止められる。
二人は彼女の名前を知っており、彼女の父親はネットでは有名人だと話す。
しかも、父親は「日暮市女子高校生殺人事件」と関わりがあるらしい。
塚本と通りすがりの男女に結衣は助けられるが、二人組の男の言葉が忘れられず、帰宅後、事件についてネットで調べる。
驚きの事実にショックを受けた彼女はバイト先のコンビニに行き、そこで一夜を過ごす。
翌日、彼女は塚本と遊園地に行くのだが…」
・「murder.8 the second part」(「JOURすてきな主婦たち」2018年12月号)
「次々と明らかになる衝撃の事実。
そして、結衣の前に現れる自称「正義の味方」たち。
殺益されるのは誰…?」
・「murder.9」(「JOURすてきな主婦たち」2019年2月号)
「永田ますみは40歳ぐらいの独身女性。
彼女は結婚していたが、不妊治療がうまくいかず、一年前に離婚していた。
子供の欲しかった彼女はアパートの隣で児童虐待が行われているのではないかと気が気でない。
隣に住むのは、北川彩華という水商売の女と、るるかという小さな娘。
壁越しにしょっちゅう子供の泣き声が聞こえ、母親は夜、しばしば娘を一人で部屋に放置していた。
ますみはるるかが虐待死してしまう前に、母親を殺益できないか悩むのだが…」
少年法と被害者問題を扱った「murder.8」、児童虐待を扱った「murder.9」はとても深い余韻を残します。
人によっては荒唐無稽な話と鼻で笑うかもしれませんが、こういう機会にいろいろな問題に思いを馳せてみることは決して無駄ではないと思います。
にしても、思うのは「一生一殺法」って未成年でも申請できて、また、殺益対象にもなるんですけど、これって少年法的には大丈夫なんでしょうか?
2025年2月12日 ページ作成・執筆