池川伸一「恐怖のほうたい女」(1980年8月1日発行/黒91)

「静岡県のある町に住む、普通の家族。両親に、姉の恵子と弟のたかしの四人一家。
 ある冬の日、代理の家庭教師を名乗る女性により、たかしが指をネズミにかじられる大怪我を負う。
 また、いつも姉弟の勉強を見ている家庭教師の金山先生は、料理の時に火傷をしたと、顔や手を包帯でぐるぐる巻きにして、恵子の前に現れる。
 恵子は、先生の火傷が昨日今日できたものでなく、ひどい重傷であることを見て取り、母親に話すが、信じてくれない。
 その夜、父親宛てに近所の寺から小包が届く。
 その中には、棺桶の形をしたオルゴールがあり、蓋を開けると、ミイラのような女性の人形があった。
 血相を変えた父親は庭でオルゴールを踏み壊し、燃やしてしまう。
 その夜、父親は心臓発作を起こし、救急車で運ばれる。
 同じ夜、弟のたかしが失踪。
 翌日、恵子はたけしの行方を捜していると、金山先生が恵子に呼びかける。
 たかしのことを知っているらしく、恵子は金山先生の家を訪れるが、そこは廃屋であった。
 訝る恵子の前で、金山先生は包帯を外し、その素顔をさらす。
 そして、恵子の父親が過去に犯した犯罪について語るのであった…」

 相変わらずの「池川節」でありますが、このマンガはなかなか楽しめました。
 このマンガでは、池川先生の最大の特徴である、独自の「哲学」が影を潜めておりまして、そのおかげで、ストーリー・ラインが明確になり、読みやすくなっております。
 ストーリーは予想通りに荒唐無稽なのではありますが、飢えたネズミを使った責め苦(注1)や、「早すぎた埋葬」の描写等、いい塩梅にバッド・テイスト。
 とは言え、この時代にこの絵と内容はやっぱり地味であります。
 時代に取り残されてしまった「個性」のことを思いますと、幾ばくかの寂しさを覚えます。

 ちなみに、気になったのが、父親の「地震と坊主は大きらいだ」(p43)というセリフ。
 もしかして、池川伸治先生の本音だったとか…?

・注1
 オクターブ・ミルボの「苦痛の庭」(1899年)という小説には、ネズミを使った処刑方法について触れられているそうです。
 まず、処刑される人間はがっちり固定されて、その尻の部分に飢えたネズミの入った壺を押し当る。
 次に、壺にあいた穴に灼熱した鉄棒を差し入れて、ネズミの近くに持っていくようにする。
 ネズミはどうにか逃げようとして、「天然の出口」に向かって…というもの。
(ジャン=リュック・エニッグ「お尻のエスプリ」(リブロス/1997年12月15日初版第1刷発行)pp208・209を参考にしました。)
 また、これに影響を受けたかどうかはさだかでありませんが、S・ハトスン「スラッグス」(ハヤカワ文庫)では、主人公達が狭い下水管から脱出しようとする時、そのうちの一人が人喰いナメクジに肛門から腹に喰い進められて、絶命するシーンがありました。
 う〜ん、何かムズムズする…。

・備考
 使用感激しい。ボロい。

2016年6月2日 ページ作成・執筆

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