樹生ナト「アカツキ論文」(1996年2月8日第1刷発行)

 暁影文(年齢不詳)は都市大学の民俗学准教授。
 写真部の洲羽野(すわの)ひな(文化人類学科1年)は、彼に写真の腕を買われて、取材のアシスタントを務めることとなる。
 二人が行く先で出会う怪異の数々とは…?

・「第1話 耳塞ぎ 〜わらし堂考察〜」(2016年7月号増刊「恐怖ファイルDX」掲載)
「K県のある村にある「わらし堂」。
 この中には大量のわらじが死者の弔いのために、奉納されていた。
 奉納の際には、何故か鼻緒を切っており、ひなは鼻緒の部分を撮るよう言われる。
 宿に帰り、ひなが写真のチェックをしていると、鼻緒の写真に異変が起きていた。
 教授の命により、日が暮れているのに、ひなは写真を撮り直すことになるのだが…」

・「第2話 眠らぬ夜 〜庚申の村考察〜」(2016年11月号増刊「恐怖ファイルDX」掲載)
「N県麻霧村では、庚申待(こうしんまち)という行事を祭事として行っていた。
 庚申待とは、庚申の日に徹夜をする風習だが、麻霧村では庚申の夜に神隠しや傷害事件が起こっていた伝承があるせいで今も続いていた。
 二人は村の人達に快く受け入れられ、昼の祭事をまず取材する。
 そして、夜は「庚申の夜」を観察しようとするのだが…」

・「第3話 八尋和邇(やひろわに) 〜あぎとの産屋考察〜」(2017年9月号増刊「悪霊退散PLUS」掲載)
「暁教授、ひな、豊田珠姫の三人はS県の山奥にある神社に向かう。
 そこには、巨大な「天狗の爪」が収蔵されていた。
 だが、実際のところ、それは古代鮫の歯の化石らしい。
 その奥には「あぎとの産屋」という祠があり、古事記の豊珠姫のエピソード(八尋和邇)と関連があった。
 そこに向かう途中、珠姫を追うストーカー男が現れ…」

・「第4話 畏形の神 〜阿供母祓い考察〜」(2018年1月号増刊「悪霊退散PLUS」掲載)
「暁教授、ひな、ひなの先輩の森下久朗はN県の谷端村を訪れる。
 そこには「阿供母(あくも)祓い」という村独自の民間伝承があった。
 村の「守戸のばあさま」によると、阿供母様は「村人に憑く悪いものを祓ってくれる村の守護者」で、憑きもの落としをしてくれることを「阿供母祓い」と呼んでいたという。
 だが、明治の初め頃の廃仏毀釈令により、阿供母像はよそ者に破壊され、以来、村人はよそ者に対して警戒するようになった。
 阿供母像を見てみると、ぱっと見は千手観音に似ているが、頭部が失われていた。
 そこに村人達が現れ、ひなは村長の家に連れ去られてしまう。
 彼女を返して欲しければ、阿供母像の首を探して来いと言われるのだが…。
 阿供母様の正体とは…?」

・「第5話 転生の船出 〜ハレヨ婚姻譚考察〜」(2018年8月号増刊「悪霊退散PLUS」掲載)
「ある雨の日、暁教授は、大学の窓の外に、見覚えのある女性が立っているのを目にする。
 そこに、ひながやって来て、暁教授の名前の入ったものらしい葉書を拾ったという。
 葉書は水でにじんでいたが、暁教授の叔父、暁亨(とうる)から、H県津下(つくだ)村の重田希世子という女性に宛てられたものであった。
 この葉書で、窓外の女性が重田希世子(キヨ姉さん)であることを思い出すが、先程の彼女は、少年の彼が会った時と姿がほとんど変わっていなかった。
 また、葉書の内容が、津下村から墓を移す際の寺の紹介であることから、暁教授は、ことを確認するために、ひなと共に津下村を訪れる。
 重田家を訪ねると、津下村は山津波が多く、数世帯しか残っていないため、廃村が決まり、亨叔父に墓の移転場所について相談したと言う。
 その話をしている最中に、 暁教授は、ずっと前に、キヨ姉さんが嫁入り前に山津波に巻き込まれ、死んだことを思い出す。
 そして、葉書の宛名の重田希世子が、彼のキヨ姉さんの名前と一緒なのは偶然なのかと問うと、それは「ハレヨの嫁入り」だと言う。
 「ハレヨの嫁入り」は、若くして死んだ人には婚礼衣装に似た綺麗な白装束と椀を持たし、来世(ハレヨ)への転生を願うことで、七回忌以内に身内に赤ん坊が産まれると、転生を祈願して、亡くなった人の名前から一字取って名付けるのが風習だと言う。
 暁教授が物思いに耽りながら、村を探索していると、一人の少年に出会う。
 シュウと名乗る少年は、彼が幼い頃出会ったアキという少年(キヨ姉さんの弟)とそっくりなのだが…」

・「第6話 花の殯(もがり)〜死華花荘考察〜」(2019年2月号増刊「悪霊退散PLUS」掲載)
「森下久朗(「第4話」参照)が話した怪談をきっかけに、暁教授、ひな、久朗の三人はS県霧生(きりゅう)村を訪れる。
 怪談の舞台、旧・紫花家には彼岸花が咲き誇っていた。
 屋敷に行く途中、久朗は霧の中で迷い、彼岸花の中で、着物姿の美しい少女と出会う。
 一方、紫花家の屋敷の前で、暁教授とひなは巨大な犬らしき獣に襲われる。
 屋敷に逃げ込んだ二人は追われるうちに、床下に転落。
 そこには通路があり、開かずの蔵へと通じていた。
 「死華花荘」の伝説に秘められた真実とは…?」

・「第0話 呪いの面影 〜奇禍面考察〜」(描きおろし)
「暁影文教授は、叔父の亨(こちらも教授)に誘われ、Y県の郷土資料館を訪れる。
 そこには「写真に撮ると呪われる」不気味な能面が展示されているという。
 亨叔父とは合流できず、暁教授は能面の写真を撮る。
 資料館を立ち去る間際、彼が写真のチェックをすると、先程の能面が禍々しい表情を浮かべていた。
 写真のフラッシュ等では説明できない「理由」を感じ、彼はその場から逃げ出すのだが…」

 作者の後書きによると、「身近な民俗学をテーマに、風習や言い伝えを独自の解釈でお話にしたもの」とのことです。
 「身近な民俗学」ということで、諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」ほど、ストロング・スタイルではありませんが、その分、読みやすいと思います。  また、「身近」だからと言って、内容が薄いというわけでなく、時間をかけてストーリーを練ったことが伝わる出来です。(ただ、幾つか釈然としないところもありますが…。)
 個人的には、第5話が傑出しているように思いました。
 第4話も悪くないのですが、村の守り神の首を百年以上も放置している点が引っかかります。

2021年9月15日・10月1日 ページ作成・執筆

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