辰巳ヨシヒロ「SFもどき」(1983年8月19日発行)
収録作品
・「昼下がりの冒険」
「男の仕事は、複雑なコンピューターを管理すること。
周囲はロボットばかりで、日常生活も全てオートメーション。
生きた人間に触れる機会がなく、たまりかねた男は会社を早退し、商店街へと行くのだが…」
・「息子よ…」
「ロボット学者の猫神博士は、病気で余命いくばくもない身体であった。
彼は、骨董品屋で、旧式の青年のロボットを手に入れ、その修復に命を燃やす。
博士の死後、遺産がロボットへ譲られたことから、博士の弟は裁判所に訴え出るのだが…」
・「厄介もの」
「日本人の男女三人が乗員の宇宙船。
そのうちの一人が急病のため、宇宙船は近くの惑星に緊急着陸する。
その星には、生物は全くおらず、ロボットがロボットを製造した機械都市であった。
ロボット達は、日本人が快適に過ごせるように、対応に追われまくる。
一方の、日本人は快適な生活を享受し、どんどん我がままになっていき…」
・「猛毒ボックス」
「上司に腹を立て、ヤケ酒を煽るサラリーマン。
ヒモに捨てられ、悲嘆に暮れるトルコ嬢。
通勤ラッシュで、些細なことから喧嘩になった男達。
彼らの愚痴を親身になって聞き、また、仲裁に入るロボットの正体とは…?」
・「猛獣つかい」
「ヒグレ・サーカス団では、ピエロの「ぴー太」と、猛獣つかいのロボット・ポニーがスターとして人気であった。
ぴー太は三歳の頃、サーカスに売られた身で、ポニーはもとは東京湾に沈んでいた欠陥ロボット。
そういう引け目が二人を結び付けていたが、更にポニーは自分が機械であることにコンプレックスを感じていた。
そして、ぴー太に恋人ができた時…」
・「でぶちんバンザイ!」
「太っちょの少年の友達は「BIG2号」。
それは、父親が守衛として勤める会社に設置されている巨大ロボットで、彼は毎晩、そのロボットと遊んだり、話したりするのが楽しみであった。
ある日、BIG2号が解体されるという話を聞き、少年はロボットの、海が見たいという望みを叶えようと奮闘する…」
・「タローとジロー」
「ある惑星に地質調査に訪れた、二人の男。
原因不明のトラブルのため、彼らは探査ロボットのタローとジローを惑星に置き去りにして、母船へと帰る。
五年後、二人が再び惑星を訪れた時、朽ち果てたはずのタローとジローに再会する。
ロボットはこの星で鉱脈を発見しており、二人を案内するのだが…」
・「女人の館」
「日本風の邸に、寝たきりの老婆が一人、住んでいた。
その邸に、おハナさんと呼ばれる、旧型の女中ロボットが通い、老婆の面倒をあれこれと看る。
老婆は、自分の生命の無意味さを嘆き、もう生きたくないと訴えるのだが…」
・「涙のパーフェクト」
「女子大生のアキは、親に内緒で男と同棲していた。
ある時、彼女は、ボーリング場で、次々とパーフェクトを決めるロボットを目にする。
以来、心のモヤモヤが晴れることがなく、苛々して仕方がない。
後日、再び、ボーリング場でそのロボットと再会するのだが…」
・「男はつらいぜ」
「サブは、宇宙船観光船のスチュワーデスに、てっぴどいフラれ方をする。
そんな彼に声をかけたのは、フーテン・ロボット、トラであった。
トラは、二人の仲を取り持つと、サブに約束するのだが…」
・「忠犬ハチ公さま」
「渋谷駅。
忠犬ハチ公像の前で、夕方になると、主人を待つロボットがいた。
彼の主人は麻薬密売で三年の刑を受けており、それでも、ロボットは、いつ釈放になるかわからないからと主人を待ち続ける。
人々はロボットを「忠実ロボット8号」と呼び、現代の美談に仕立て上げるのだが…」
・「飼育」
「日本の、ある動物園。
「人間」の檻の中には、青年が一人、入れられ、ロボット達によって飼育されていた。
ロボット達は、つがいを亡くした彼のために、南太平洋共和帝国からメスを得て、彼にあてがおうとするのだが…」
・「面汚し」
「21××年、大日本合衆国。
大統領選挙にて、人間のタナカ候補とロボットのボルト候補が激しく対立する。
タナカは「血のかよった政治」をモットーにし、ボルトは「ロボットは人間を裏切ったことはない」とクリーンな政治を売り物にする。
選挙の結果の行方は…?」
(「週刊漫画サンデー」1983年1月初〜3月下旬)
「SFもどき」とは、なかなか粋なタイトルであります。
あくまで「SFもどき」で、近未来なのに、居酒屋もあれば、トルコ風呂もある。満員電車もあれば、体育の授業には跳び箱もある…といった感じです。(注1)
「SF」の皮をかぶせてはおりますが、基本は、辰巳ヨシヒロ先生お得意の、滋味のある短編で、人間観察と社会風刺が肝だと思っております。
個人的には、「厄介もの」「飼育」「面汚し」が、かなり毒が強く、好みです。
・注1
まあ、「ブレードランナー」だって、薄汚い屋台、ありましたしね。
・備考
巻末の下部に、鉛筆で書き込みあり。
2020年4月19日 ページ作成・執筆
2021年2月5日 加筆訂正