永井豪「切れた糸 〜永井豪自選作品集〜」(2001年1月10日初版発行)

 収録作品

・「くずれる」(「週刊少年マガジン」1971年4月25日号)
「木村正(19歳)は町中を歩いていて、背後から見知らぬ中年男性に声をかけられる。
 中年男性は正にふりむかないよう言い、何故三か月も連絡をよこさないのか尋ねる。
 全く理由はわからないが、正は三人の男達に尾行されているらしい。
 男性の指示通りに、路地裏に走り込むと、中年男性は追っ手を光線銃で殺してしまう。
 正は中年男性の車に乗せられ、山中の秘密基地に連れてこられる。
 正は皆から歓迎されるが、何故か彼のことをビオと呼ぶ。
 彼らが言うのは、自分たちはボア星人で、正も同類らしいのだが…」

・「DON!」(「増刊少年マガジン」1981年7月10日号)
「原辰男はちょっと気弱で、夢見がちな、普通の中学生。
 口うるさい母親、金をたかる不良達、嫌味な教師…そんな奴らは手を銃の形にして「ドン!」。
 ある日、勇気を出して、同級生の岡田真弓を日曜日に映画に誘うも、すっぽかされてしまう。
 彼は彼女に電話をするが、すっかり忘れていたと言われ、電話を切った後、電話に向かって「ドン!」。
 でも、翌日、彼女は彼にちゃんと謝り、次は自分から誘うと約束する。
 その後、父兄参観の授業となるが…」

・「鬼ごっこ」(「小説中公」1993年1月号)
「夕方、ケン太は帰ろうとした時、ガキンチョのグループに絡まれる。
 彼らは彼が東京から来たのも、家のテレビがカラーなのも気に入らない。
 彼らは「かくれんぼ」をすると言うが、彼ら全員が鬼で、隠れるのはケン太一人。
 しかも、一時間以内に見つかったら、リンチにすると脅される。
 十秒の間にケン太は隠れ場所を見つけると、ガキンチョ達は次々と鬼に変化して…」

・「RED STRING」(「週刊ヤングジャンプ」1990年3月8日号)
「高村亘は足を骨折して、入院中。
 彼の隣の病室には、彼と同年代の女の子がおり、心臓の病気で重体らしい。
 夜、彼が目を覚ますと、左手小指に赤い糸が結ばれている。
 松葉杖を突きつつ、その糸を辿っていくと、そこは集中治療室。
 その中では、若い娘が死神に連れ去られようとしていた。
 赤い糸は少女の小指に結び付けられていたため、彼も引っ張られて、あの世へと飛んでいく。
 このままでは死んでしまうと、赤い糸をたぐり、死神を攻撃するのだが…」

・「蟲」(「増刊少年マガジン」1980年4月15日号)
「ある朝、キヨシが目覚めると、自分以外の人間が全て、虫になっていた。
 だが、母親は勉強勉強と相変わらずうるさいし、皆、普通の人間のように生活している。
 学校に行くも、皆、虫になっていて、誰が誰やらさっぱりわからない。
 孤立感が深まるうちに、彼は、ここは「虫の世界だ」と、教室で暴れ始め…」

・「白い世界の怪物」(「週刊少年マガジン」1971年12月19日号)
「午前二時、まもるは目覚まし時計の音で目を覚ます。
 隣のベッドに兄がおらず、両親の寝室に行っても、誰もいない。
 外は吹雪で、どこかに出かけたとは考えられない。
 急にどこからか太鼓の音が聞こえてくる。
 テレビでもレコードでもなく、どこで鳴っているのかわからない。
 まもるがカーテンを開くと、雪原の向こうから、鬼が走って来るのが見える。
 鬼は窓から侵入し、まもるは鬼と戦おうとするのだが…」

・「アフリカの血」(筒井康隆・原作)(「週刊少年マガジン」1971年4月11日号)
「「土人」「混血」とバカにされ、二人の男女を殺した黒人。
 部族の神は彼を「戦士」と呼び、戦うよう命ずる。
 文明は決して彼を殺せない。
 谷を越え、密林を走り、野を駆けて、彼は逃げる。
 彼のライバルは「巨大な野獣」のみ…」

・「ススムちゃん大ショック」(「週刊少年マガジン」1971年3月7日号)
「ある日、突然、大人達が子供を殺し始めた。
 それはいとも無造作に、そして、無感情に…。
 ススムは異変を察し、マンホールへと逃げ込む。
 のぼると東間が彼に合流し、彼らは異変について語り合う。
 この異変の原因は…?」

・「吸血温泉へようこそ」(「コミックバズーカ」1997年5月〜8月号)
「元アイドルの白鳥みゆきとマネージャーのジロー。
 二人は独立後、ほされてしまい、温泉のポスターのモデルの仕事で再起を図る。
 その温泉は「九ヶ都温泉」といい、村には吸血鬼伝説があった。
 みゆきはどうも乗る気でなかったが、ジローは四駆の車を買い込むという張り切りよう。
 途中で道に迷い、夜、野宿をするが、コウモリが彼らを窺っている。
 ジローがコウモリに近づくと、突如、コウモリが化け物になって襲い掛かる。
 そこに、十字架を構えたシスターが現れ、コウモリを撃破。
 一方、みゆきは吸血鬼に篭絡されそうになっていた。
 ジローはシスターからもらった十字架で、吸血鬼を退散させる。
 翌日、二人はホテル・バートリエルジェベトに到着。
 ホテルは無人であったが、カメラマンの大上月雄という男が現れ、早速、露天風呂で写真撮影に入る。
 その夜、ホテルで、二人は支配人の咬森跳男、そして、社長のエルジェベト・杉本の挨拶を受ける。
 夜も更け、ジローが寝ようとすると、彼の部屋の窓から、前日のシスター二人組が入って来る。
 シスターは、みゆきが吸血鬼に襲われたことを察し、ジロー達は彼女の部屋に向かうのだが…。
 西洋の吸血鬼軍団 vs ハレンチなエクソシスト集団…その戦いの行方は…?」

・江口達也「解説 我が心の師 永井豪先生」

 永井豪先生の怪奇短編のアンソロジーです。
 自選集だけあって収録作品は粒よりで、初心者にもマニアにもお勧めです。
 個人的には、「DON!」「蟲」「RED STRING」といった1980〜90年代の作品が、思春期の少年の心理を巧みに描いていて、良いと思います。
 ちなみに、「吸血温泉へようこそ」は全くシリアスな要素はなく、徹頭徹尾「おふざけ」な内容ですので、この手のセンスが肌に合わない人にはきついかも…。

2022年8月12日・12月30日 ページ作成・執筆
2024年1月25日 加筆訂正

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