ささやななえ
「化粧曼陀羅・前編」(1992年9月17日発行)
「化粧曼陀羅・後編」(1992年9月17日発行)
収録作品
・「化粧曼陀羅@」(前編/1984年「プチフラワー」6月号〜9月号)
「北東学園大学部一年、宮前珠々子は洋館風のアパートに引っ越す。
理由は、憧れの緒方夜刀彦(やつひこ)の邸が隣にあるからであった。
下宿の離れには、九沼白貴という高等部の青年が住んでおり、彼は緒方夜刀彦と関わりがあるらしい。
下宿に移ってから、珠々子は幾度も奇怪な体験をする。
また、その場には九沼白貴も姿を現すことが多く、彼女にこの場所から離れるよう警告する。
彼女は白貴について調べ始め、それをきっかけに緒方夜刀彦と親しくなる。
彼によると、白貴は本家とは遠縁の者で、夜刀彦の祖母によって九沼村から呼び寄せられたという。
緒方家では、蛇を巻き付けた「くんだり魔王」の像を祀っており、蛇は神の化身とされていた。
そして、もうすぐ90年に一度の「くんだり様」の大命日で、儀式のために白貴は呼ばれたようなのだが…。
一方、珠々子はあまりに異様なことが続いたため、下宿を出ようとする。
だが、時すでに遅く、彼女は否応なく緒方家の儀式に巻き込まれていく…」
・「オシラ伝」(前編/1983年「プチフラワー」11月号)
「(「化粧曼陀羅」の前日譚)
九沼の村。
九沼珠々子(「化粧曼陀羅」の宮前珠々子とは別人)が産まれた日、「入らず山」(人が死んだら行くと言われた山)から来た「オシラサマ」(民間伝承での巫女・イタコ)が吉凶を占うと、「九沼の家を滅ぼす子」と告げられる。
赤ん坊の身体には不思議な模様があり、物心ついた時には消えていたが、彼女の母親にはいまだその模様が浮き出ることがあった。
その模様は、九沼の家の女にだけ現れる現象で、伝説によると「入らず山」の蛇の神と契り、その代償として身体に紋様を刻まれたという。
村人は九沼家の女性を「蛇神つき」と呼んで忌み嫌い、ある夜、村人の一人に家を放火され、母親は死亡。
村で唯一残っていた九沼家の伯父夫婦は彼女の引き取りを拒否し、不憫に思った祖父は、東京にいる知り合いに彼女を預ける。
それから十二年、幸せに育てられた彼女のもとに、白貴という青年が、九沼の家から使いとしてやって来る。
去年、亡くなった祖父について何やら、相談があるらしい。
養父母が止めるのも聞かず、彼女は白貴と共に九沼の村を再訪する。
そこはいまだに因習に囚われ、彼女に対する村人の視線は冷たかった。
しかし、子供の頃はあんなに冷たかった伯父夫婦は妙に親しげな態度を見せる。
ただ、その態度はどこか不自然であった。
彼女への用件とは、祖父の遺産問題で、彼女は遺産放棄するものの、何故か数日間の滞在を勧められる。
彼女を呼び寄せた伯父夫婦の真の理由とは…?
また、珠々子にもこの村に来たのにはある目的があった…」
・「化粧曼陀羅A」(後編/1984年「プチフラワー」10月号〜11月号)
「大命日を明後日に控え、緒方の本家には多くの親族が集まって来る。
催眠術をかけられた珠々子は地下にある祭祀場につれて行かれ、白貴にできることは彼女にテレパシーを送ることのみ。
一方、野心に燃える夜刀彦は探偵に九沼村を調査させ、驚愕の事実を知る。
彼は珠々子に案内させ、岩戸の向こうの「くんだり様」のおわす場所へ行こうとするのだが…。
「くんだり様」の正体は…?」
・「化粧曼陀羅―冬の祭り」(後編/1985年「プチフラワー」3月号〜4月号)
「S文社の一行が九沼村を訪れる。
彼らは「十三参り」(夜中、数えで13になった子供たちが夜道を通って入らず山の寺に行く儀式)の取材に訪れたのであった。
スタッフの一人、黒崎理江は色白で美形の青年が自分を見つめていることに気付く。
彼は山に住んでいるらしく、一行の世話役であったが、彼らに対しそっけない。
一行にはもう一人、中野よし子という女性がおり、彼女と理江は犬猿の仲であった。
作家のよし子は編集長の竹中に色仕掛けを使っていたが、理江も彼に想いを寄せており、その浅ましさに憎悪を募らせる。
「十三祭り」の取材は女人禁制と言われ、理江とよし子は小屋で待機することとなる。
その夜、彼女は祖母の夢を見て、目覚める。
横を見ると、中野よし子の姿がなく、祭りをこっそり見に行ったかと思いきや、台所で喉を叩き切られた彼女の死体があった。
その死体の横にいたのは…?
小屋をとび出た理江はあの青年に匿われる。
彼が彼女の後に憑いてるものについて尋ねると…」
・「河童」(後編/1983年「プチフラワー」3月号、7月号)
「高校生の島村正大(16歳ぐらい)は育ての父親に頼まれて、生まれ故郷の中部の村を訪れる。
用件は村一番の財産家の御成家に届け物をすることであった。
村は変わってはいたものの、御成家は子供の頃と変わらず、旧態依然。
家の実権は強圧的な祖母が握り、息子とその娘、ネネコは病床に就き、息子の後妻は祖母にいびられていた。
正大はこの家の冷たい雰囲気が好きになれず、外の様子を見に行く。
子供の頃、よく釣りに来た川があり、河原に降りると、灌木の背後から着物姿の子供が現れる。
その子は彼が8歳の時に会った少年とそっくりで、自分は「御成の子供」と話す。
正大はその子供をネネコだと考えるのだが…。
その奇妙な子供の正体は…?」
諸星大二郎先生の伝奇ホラーは多方面に大きな影響を与えておりますが、ささやななえ先生はその中で大きな成果を上げた御一人でしょう。
ささやななえ先生の伝奇ホラーは九沼白貴のシリーズ(「化粧曼陀羅」)と近藤清美のシリーズ( 「たたらの辻に…」「水面の郷・水底の郷」)の二つがありますが、両作品とも、主人公がイケメンで、伝奇ホラーをうまく少女漫画と融合させているのが売りです。
ただ、近藤清美が主人公の作品は恋愛ものの比重が高いのに較べ、九沼白貴の方はアウトサイダー&一匹狼ですので、よりダークです。
それでも楽しく読めてしまうのは、ストーリー展開や構成が抜群に上手だからでありましょう。
「化粧曼陀羅」、傑作ですので、是非ご一読をお勧めいたします。
2021年1月11日/2024年6月17・18日 ページ作成・執筆