山岸凉子「瑠璃の爪」(1987年8月17日初版発行)

 収録作品

・「瑠璃の爪」(1986年「ASUKA」10月号掲載)
「東京で起こった、妹が実姉を殺害した事件。
 加害者は上杉絹子(28歳)で自宅のベランダで、姉の敦子(31歳)の胸を柳刃包丁で刺したのであった。
 敦子は国立の女子大を出た秀才で、母の死後、世間知のない妹の世話を甲斐甲斐しく焼いていた。
 学生時代の友人、隣人、ピアノ教師、親戚、実兄といった人々の証言から、おぼろげに浮かび上がる真相とは…?」

・「鳥向楽」(1986年「ASUKA」11月号掲載)
「太古の下界に墜とされた迦陵頻伽(かりょうびんが)。
 彼女が語る天上界の思い出…。
 そして、幾度も転生を重ねた末に…」

・「海底より」(1983年「ひとみデラックス」11月25日号掲載)
「下関市。
 登の家で、元・アイドル歌手の翼マミを預かることとなる。
 彼女は一年前から視力がどんどん落ち、厄介者として親戚中をたらい回しにされた挙句、遠い親戚である登の家に押し付けられたのであった。
 その夜、マミは、目がよく見えないのに、外出する。
 登が後を追うと、彼女は赤間神宮にいた。
 耳なし芳一に興味を持ち、翌日、彼女は赤間神宮の七盛塚を訪れる。
 耳なし芳一の像の前に立つと、平家物語を語る声が聞こえ、気が付くと、黄昏時であった。
 この出来事以降、彼女の絶望した心は、平家の怨霊と同調していく…」

・「ある夜に」(1981年「グレープフルーツ」創刊号掲載)
「夜の町。
 髪の長い娘、老婆、ショートカットの娘、初老の女性が夜道を歩いている。
 老婆は花の上を、ロングの娘と初老の女性は石の上を歩いているが、実際は三人ともアスファルトを歩いている感じであった。
 だが、自分は被害者だと主張する、ショートカットの娘だけは砂の上を歩いていて、足が疲れて仕方がない。
 そのうち、波の音が聞こえ、彼女達は海に着くが…」

・「木花佐久夜毘売(このはなさくやひめ)」(1986年「ASUKA」6月号掲載)
「中原典子の名前は三歳年上の姉、咲耶が付けたものであった。
 咲耶は小・中・高とずっとトップで、ストレートで国立大に合格。
 また、父親は県下一の名門、M高校の英語教師で、典子は姉と比較されながら、育つ。
 典子の通うN学園はエスカレーター式の女学校で、これも咲耶の推薦。
 高校に進む頃には、典子はすっかり派手派手になっていた。
 だが、飛渡圭という大学生と出会ったことで、彼女の運命は変わる。
 彼は咲耶の同級生で、典子と同じく、自分の名前にあるわだかまりを持っていた。
 典子が真の自分に目覚める時…」

・「あらら・内輪話」(1982年「別冊LaLa」夏の号掲載)
「山岸凉子先生の小学校時代の思い出や、初代ゴジラに対するトラウマ等を描いたエッセイ」

 この単行本では、姉妹の確執を描いた作品が二点(「瑠璃の爪」「木花佐久夜毘売」)あり、これが最大の目玉でしょう。
 結末は対照的ですが、「姉妹作」と言える内容で、特に「瑠璃の爪」の方は、どんな浮かれ気分も読めばどん底に引きずり落とされる傑作です。
 あと、個人的に気になるのは小品の「ある夜に」。
 死者達が夜道を歩いて、あの世に行くだけの話なんですが、この淡々とした説得力は何なんだろう…?
 とりあえず、死んだら「こんなものかもしれない」ということはよくわかりました。

2023年1月6・7・30日 ページ作成・執筆

角川書店・リストに戻る

メインページに戻る