北沢しげる「妖奇伝」(240円)
「雪国。
ある秋の日、またぎの老人、源助は狩りの帰りに、きつね森に寄る。
この森には五郎狐という非常に賢い狐が棲んでおり、またぎ仲間の誰もいまだ仕留めることができなかった。
源助は五郎狐を見つけ、銃で狙うが、五郎狐は源助に気付きながらも、その場を動かない。
射殺した後、狐の身体の下からは赤ん坊が見つかり、五郎狐がこの赤ん坊を育てていたことに源助は気づく。
五郎狐を弔った後、源助は赤ん坊を家に連れて帰り、今吉と名付け、育児に明け暮れる。
今吉には不思議なところがあり、源助のいない所では狐たちと戯れ、また、冬になると、乳を飲む時以外は冬眠するようにほとんど眠ったままであった。
彼が七歳になった頃には、一人で山に行き、素手でウサギを獲ってきた。
彼は村人達からは「狐っ子」と噂され、子供達から仲間外れにされ、ろくろく学校に通わない。
ただ一人、相沢ちか子という少女だけが彼の味方であった。
ある年、三橋という男性教師が新しく赴任してきて、今吉に関心を持つ。
三橋の特別指導のお陰で、今吉は徐々に勉強ができるようになる。
また、今吉には超人的な脚力があったが、彼は人並でないことを知られ、狐と言われることを極度に恐れる。
15歳の時、彼は左足を狐の罠に挟まれ、破傷風にかかる。
源助はお稲荷様に、自分の命と引き換えに今吉を助けるよう祈り、その甲斐あってか、彼は一命を取り留める。
しかし、骨が砕けていたために、治るのに時間がかかり、その間に、三橋先生に移動命令が出る。
ちか子と一緒に先生を見送った後、彼が拾われたキツネ塚に寄る。
すると、奇妙な女性が笑いながら現れ、また森の中に姿を消す。
ちか子はその女性が今吉の母親ではないかと思うのだが…。
そして、その冬、様々な苦難が今吉を襲う…」
懐かしい民話の香の漂う幻想譚です。
北沢しげる先生らしく、ヒューマニズムを基調としたストーリーで、若干、釈然としないところはありますが、このノスタルジックは雰囲気は捨てがたいです。
粗筋を読んでも、わかる通り、怪奇色は薄いのですが、狐祓いの儀式で主人公をボコボコにするシーンがあるので良しとしましょう。(そういう問題か?)
作者の真心のこもった作品で、疲れている時に読むと、心洗われます。
・備考
ビニールカバー貼り付け。糸綴じあり。後ろの遊び紙に書き込みあり。
2023年5月7・8日 ページ作成・執筆