/北沢しげる「石の柩」(230円/1968年末頃)


「電子工学の権威だった父を持つ片桐弘史。
 だが、父の急逝により、大学に行けず、夜学に通いながら、電子工学研究センターで準職員として働く。
 準職員とは言え、実際はただの雑役に過ぎず、研究員を夢見る彼は焦りを感じ始めていた。
 所長秘書の巻村和子と、研究所職員である、和子の父は、欠員が出るまで気長に待つよう、弘史を慰めるが、彼はこの言葉に反発を覚える。
 彼は、ドストエフスキー「罪と罰」の主人公、ラスコルニコフに共鳴しており、天才である自分にとって邪魔な者は排除する決意を固める。
 数日後、彼は、失恋したばかりの黒崎という研究員に接近し、痛飲させた後、研究所の増築工事現場に連れ込み、スコップで撲殺。
 死体は基礎工事の所に埋め、翌日、そこにセメントが流し込まれる。
 計画はうまく行き、黒崎は失恋により失踪したと判断されるが、彼は研究員に取り上げてはもらえず、無駄骨に終わる。
 そこで、次に、学閥主義の所長の殺害を目論むのだが…」

 「怪奇アンソロジー」と銘打ってはおりますが、社会派のサスペンス・ドラマといった趣です。(とりあえず、ホラーではありません。)
 そして、作者の人柄故か、非常にシリアスな内容です。
 ラストの
「人間は猿から進化した動物だとしたら完全すぎる
 また、人間を創ったのが神だとしたら人間は不完全すぎる
 そして、皮肉なことに、人間は完全欲が強すぎる…」
 は名言です。

 ちなみに、主人公の「片桐弘史」は平田弘史先生からいただいたのではないでしょうか?
 テレビに映っている時代劇の描写が平田弘史先生っぽいかも…。(積み上げた本の上にテレビを置いているのが味わい深い。)

・備考
 ビニールカバー剥がし痕あり。カバー痛み、かつ、貼り付け。本体に歪み。糸綴じあり。本文、シミや汚れ、多し。後の遊び紙に貸本店のスタンプあり。

2018年11月8日 ページ作成・執筆

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