西たけろう「鏡の中の死」(220円)
「雪山で遭難した猟師が二人、山奥の屋敷にたどり着く。
荒れ果ててはいたが、風雪を凌ぐには問題はない。
だが、その屋敷で、二人はカチカチに凍り付いた中年の婦人の死体と、日記帳を発見する。
その日記帳には、世にも不思議な話が記されていた…。
良家の一人娘であるスージは、奇妙な夢に悩まされる。
その夢の中には、スージは原始時代で生活していた。
原始時代であっても、あまりにリアルなため、スージにはそれが夢とは思えない。
しかも、眠る時間が徐々に長くなり、ある時間になると、意識を失ったように眠り込むようになる。
次第にスージはどちらが現実で、どちらが夢か判断がつかなくなるのだった…」
有名な故事「胡蝶の夢」…それを題材にした作品は数多くあると思います。
ただ、使い古された話であるためか、個人的に記憶に残っているのは、フリオ・コルターサル「夜、あおむけにされて」、「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」、「世にも奇妙な物語」の一話(タイトル忘れ)ぐらいなのであります。(注1)
西先生の作品も明らかに「胡蝶の夢」パターンなのでありますが、原始時代の生活の描写が活き活きしておりまして、なかなか楽しめます。
また、(ネタバレですが)主人公が夢の世界で生きていくことを決心するといった結末も、ありきたりなパターンに陥っていないと思います。
惜しむらくは、現実と夢の間をつなぐ「鏡」をうまくストーリーと絡めたら、もっと幻想性を増していたかもしれません。
まあ、それを抜きにしても、佳作と呼ぶに相応しいでしょう。
・注1
足利尊氏と高師直「あっ!アシカがっ!!!」(集英社/ヤングジャンプ・コミックス/2012年3月24日第1刷発行)収録の「胡蝶の夢」も忘れてはいけませんね!!
・備考
ビニールカバー貼り付け、それによる表紙の歪み。前後の遊び紙と小口底に貸本屋のスタンプ。pp48〜52、目立つシミあり、他にもところどころシミや汚れあり。小口上部に、マジックによる線引きあり。
平成27年10月9日 ページ作成・執筆