好美のぼる「火葬場の絶叫」(230円)
「村はずれの山中にある古い火葬場に、昼間にも関わらず、幽霊が出るという噂が立つ。
読書が好きな大人しい少女、小原麻理子は、高慢ちきなお嬢様、高田八重子にそそのかされ、夜中に、その噂を確かめに行くこととなる。
両親に嘘をついて、家を脱け出し、火葬場を目指すが、道に迷ってしまう。
すると、山の中に見知らぬ家が麻理子の前に現れる。
女主人が出てきて、麻理子は手厚い歓待を受けるが、どこか奇妙であった。
半ば無理矢理に麻理子はその家に泊まることになるが、悪夢に悩まされる。
これは実は、成仏できない火葬場の霊達が自分達のことを人に知らそうと企んだことなのであった…」
怪奇マンガ・ファンの極一部で熱狂的なファンがいる(らしい)、故・好美のぼる先生。
貸本怪奇マンガは立派なコレクターズ・アイテムと化し、正気とは思えぬ価格で取引されております。
が、凄そうだという思い込みだけで入手したのはいいものの、実際読んで、がっかりした人は多いのではないでしょうか。
基本的に全ての作品が「描きとばした」ようなものでありますので、そこに「深み」というものは全くありません。
あらゆるものを取り込む貪欲さはありますが、あくまでも表面的なものだけにとどまり、「メッキ」だけの作品も少なくないように思います。
(まだまだ、わずかな数の作品しか読んでおりませんので、確信はありませんが…。)
とはいうものの、好美のぼる先生を侮るなかれ。
下手な小細工を弄して、形ばかりの重厚さを装う作品と違い、「raw」としか言いようなない怪奇マンガを生み出しております。
今回、ご紹介する「火葬場の絶叫」はそういう作品の中でも逸品だと考えてます。
成仏できない霊達が弄するあの手この手の作戦や、ゲテゲテな屋敷の描写(頭蓋骨の床、蛇の包帯、ナメクジ風呂、ゲテモノ料理…)等、ムチャクチャかつテキト〜の極みでありますが、そこが心にじんわりしみ入るのであります。
ひどく泥臭いのですが、懐かしい香りがします。
トイレで死んだだけで仲間の霊から差別される霊の描写でさえ、世知辛いながらも、どこか牧歌的であります。
作者が狙ったわけではないのでしょうが、私にとっては「温かい」マンガなのであります。
ちなみに、当初、好美のぼる先生は「ギャー」というタイトルでマンガを描いていたふしがあります。
巻末の新刊案内にも「ギャー」のタイトルで載っております。
恐らく、編集者か誰かが「さすがにそれはないだろう」とタイトルを「火葬場の絶叫」に変えたのではないでしょうか?
証拠は全くないのですが、この推測は正しいのではないか、と私個人は信じております。
・備考
ビニールカバー剥がし痕あり。カバーに痛み、背表紙の痛みがひどく、一部欠損あり。水濡れの痕あり。後ろの遊び紙に貸出票の剥がし痕あり。
平成27年11月29日 ページ作成・執筆