西たけろう「狂花草」(220円)
「香川かすみは不幸な少女であった。
母親には先立たれ、父親も半年にわたる闘病生活の末、死去。
おばのもとでやっていたバイトもあっさり首を切られ、働くところはない。
そんな閉塞状況の中、かすみは、無人のY国大使館の壁に見たことのない花が咲いているのを目にする。
よくよく見ると、壁にはドアがあり、かすみはそのドアを開け、向こうへ出る。
そこには一面、花が咲き乱れており、その先には下りのエスカレーターがあった。
かすみがエスカレーターに乗って降りると、奇妙な都市に辿り着く。
そこには多くの人々がかすみを待ち受けており、かすみを歓迎する。
実は、この世界は三万年後の世界であった。
その世界では、地上で暮らす人間と、地下で暮らす人間とに分かれていた。
地下で暮らす人間は地下の機械を動かしていたが、長年の地下生活により、退化し、人間らしさを失っていた。
一方、地上で暮らす人間は全て機械任せにしていたために、考える能力を失っていた。
地上人間と地下人間の対立が深まる中、最も優れていたと言われる二十世紀の人間の代表として、かすみが呼ばれたのである。
かすみは、対立を避けるために尽力するが、未来世界にも、かすみの現実の生活にも、破局が訪れる…」
ストーリーはかなり面白いと思うのですが、練り込み不足の感があります。
冒頭の登場人物を紹介するページに出てくるフローラというキャラは、ほとんど出てきませんし、タイトルの「狂花草」も結局、何なのかわかりません。
このテーマに挑戦するには、時間的・体力的な余裕がなかったのではないでしょうか。
ただ、そのチャレンジ・スピリットには深く深く敬服いたします。
個人的に、興味を持ったのは、ラストがH・G・ウェルズの名編「塀とその扉」(注1)だったことです。
西たけろう先生の嗜好が垣間見えて、興味深いです。
・注1
サマセット・モーム編「世界文学100選A」収録(河内書房新社/1961年5月10日発行)。
この本には、ジェイコブス「猿の手」、サキ「トバーモリー」(人語を解する猫の話)、ジャック・ロンドン「焚火」といった異色の短編が収められております。
とは言うものの、ちゃんと全部を通して読んだわけではありません。あしからず。
・備考
セロファン紙の剥がし痕あり。前の遊び紙、折れあり。本文、シミあり。後ろの遊び紙に貸出票の貼り付けあり。
2016年11月5日 ページ作成・執筆